ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Sword of Honour" 雑感(1)

 Evelyn Waugh の "Sword of Honour"(1965)をまたボチボチ読みはじめた。諸般の事情でいったん中断していたが、そろそろ片づけないことには、いつまでたってもほかの本が読めない。
 改めて言うと、これは周知のとおり、"Men at Arms"(1952)、"Officers and Gentlemen"(1955)、"Unconditional Surrender"(1961)という三部作が、上のタイトルのもとに合冊されたものである。ぼくとしては、Joyce Carol Oates のワンダーランド四部作、Lawrence Durrell のアレクサンドリア四重奏、Faulkner のスノープス三部作に引き続き、〈連作シリーズ〉の一環で取りかかった。
 連作の合冊版というからには、アレクサンドリア四重奏のように明確な切れ目があるものと思ったが、巻末の注によれば第4章までが元の第一部らしいものの、第5章とのつながりがスムーズで、三部作をべつべつに評価することはどうも無理のようだ。Waugh 自身が序文にしるした意図どおり、a single story として扱うのが正しい読み方だろう。
 とはいえ、せっかく第4章を通過したところだ。それまでをあえて独立した作品として採点すると、☆☆☆☆。中断したわりには、かなり面白い。
 ひとことで言うなら、第二次大戦を題材にしたコメディー。戦争の狂気や不条理をこっけいに描いた小説や映画はもはや珍しくない。ヘソ曲がりな読者・観客の立場としては、おおかたの場合、おや、またその話ですか、と反射的に反応してしまう。よほど斬新な工夫、アプローチが認められないかぎり、それなら昔の名作を読めばいいじゃん、ということになる。
 その点、本書はなんとも型破りだ。大戦後わずか7年でこんな作品を書いていたとは、さすが Evelyn Waugh、タダ者ではありませんな。
 まず、ここにはほとんど戦闘場面が出てこない。一箇所だけあるにはあるのだが、本格的な戦闘とは言いがたい。なにしろ、そこは最前線から遠く離れたアフリカのフランス植民地ダカール。急遽 Wiki で調べると、1940年9月にダカール沖海戦というのがあったらしいのだけれど、本書はそれとはまったく無関係。せいぜい、skirmish の程度だろう。
 その skirmish にかかわったのが Guy Crouchback という冴えない中年男。いちおう将校だけど、本人の意気込みとは裏腹に周囲の評価は低く、若手将校から uncle と呼ばれている。
 この男、大戦勃発前は妻の不倫をきっかけに離婚、長らくイタリアの田舎町の別荘に住んでいたのだが、祖国の危機に際して帰国。その前日、十字軍の時代に honourable burial をほどこされた騎士の墓を訪れ、かたわらの sword に指をかけるシーンが出てくる(p.5)。これがどうやらタイトルの由来らしい。
 ところが、その Guy は元妻の元不倫相手と一杯やるなど、sword of honour とはおよそ縁もゆかりもない人物で、友人や上官、旅団長にいたるまでヘンテコぞろい。それなのに、いや、だからこそと言うべきか、戦争の不条理がじわじわと伝わってくるところがとても面白い。そのあたり、レビューを書くときは、もう少しよく考えてみないといけない。
(写真は、愛媛県宇和島市九島付近の夕景)

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