ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Margaret Drabble の "A Summer Bird-Cage"

 フォークナーの "The Mansion"(1959)をボチボチ読んでいる。おなじ作家の作品を三冊も立て続けに読むのは、おそらく初めてだろう。いつもなら、作風が新鮮に感じられるように間隔を置くところだ。
 あ、ちがってた。エクセルの読書記録をいま見ると、今年の三月、Patrick Modiano を三連チャンしてました。それなのにもう忘れるとは。
 さらに記録をさかのぼったところ、まだレビューらしきものを書いていなかった2003年の夏、やはりフォークナーを三冊連続して読んでいた。怪しい記憶を頼りに点数を付けてみると、"Sanctuary"(1931 ☆☆☆★★★)、"As I Lay Dying"(1930 ☆☆☆★★★)、"Absalom, Absalom!"(1936 ☆☆☆☆★★)。なんだか熱に浮かされたように読み耽った憶えがある。
 いまはそれほど夢中でもないけれど、"The Mansion" はご存じスノープス三部作の最終巻。行きがかり上ってやつですね。じつは何年か前、三部作のひとつとも知らずに取りかかり、途中で気がつき投げ出していた。
 そういえば、第二巻 "The Town" のレビューにスターを付けてくださった dokusho-suki さん、ありがとうございます。ほんとうに読書好きの方のようですね。
 さて、きょうの午後からまた愛媛の田舎に帰省することになった。所用があり、"The Mansion" はただのお荷物になりそうだ。そこでけさはとりあえず、本ブログでは未公開だった昔のレビューに加筆修正したものでお茶を濁しておこう。マーガレット・ドラブルの処女作(1963)です。 (追記:その後、2008年7月に公開していたことを発見しました)。


[☆☆☆★★] たわいもない小説だ。しかしおもしろい。才気煥発だが器量は十人なみの妹が主人公。この妹には目も覚めるような美人の姉がいる。幼いころから姉は妹にたいしてなにかと傲岸不遜にふるまい、妹はまったく頭が上がらない。ところが、姉もひとの子、じつはほほえましい欠点の持ち主だった。当初はそれだけの話だが、ドラブルの小説技法はじつに巧妙。姉の結婚式前後のエピソードがいい例で、いとこや介添え役の男、宴の席で妹が再会した旧友など、脇役たちの性格や関係からじっくり固めていく。その人間観察と妹のおしゃべりが中心で、劇的な意味での展開はほとんどない。そのあいまに姉の結婚の実態がかいま見える、という凝った仕掛けである。妹がロンドンで暮らしはじめた中盤もしかり。パーティーで知りあった男との会話や相手の性格描写などがつづき、とくに事件らしい事件もないのに小説として成りたっている。これはやはり英文学伝統の味というしかあるまい。やがて上の介添え役がジョーカー的な存在だったことが判明、結婚と恋愛のはざまでゆれ動く女性の生きかたが示される。深みのある話ではないが、脇役を通じて主役の人物像が浮かびあがり、最後は主役の独壇場。話術と構成の妙が光る佳篇である。