ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Modiano の “In the Café of Lost Youth”(1)

 きょうは本当は "Dora Bruder" の続きを書くまわりなのだが、ゆうべ、ハワイ旅行の帰りに読みはじめた、同じく Patrick Modiano の "In the Café of Lost Youth"(2007)を読了。記憶が薄れないうちに、そちらのレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 青春とは、日常的な閉塞感から逃れようとしながら目標が定まらず、かえって空虚感をおぼえる時代かもしれない。そんな迷える若者たち、あるいは、そういう青春時代を過ごしたおとなたちの集まるパリのカフェ。そこにふと現われた若い女はいったい何者なのか。彼女自身もふくめ四人の客がそれぞれ自分の人生をふりかえるうち、次第に女の実像が闇のなかから浮かびあがってくる。その女ジャクリーヌは夜の街をさまよい、彼女が出会った男ローランもやがて彷徨に合流。カフェ文化の街パリならではの物語を集めた連作短編集である。とりわけ、ローランが後年、新しい店ができて昔の面影がなにひとつないカフェの跡地を訪れ、ジャクリーヌと最後に過ごしたひとときを回想する最終話は、たまらなく切ない。永遠の時間のなかで凍りついた、白い真空のような空虚感にしばし茫然。ジャクリーヌが断ち切ろうとしたものを思うと、なおさら胸をえぐられる。