ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Salman Rushdie の “Midnight's Children”(1)

 1981年のブッカー賞受賞作、Salman Rushdie の "Midnight's Children"(81)を読了。周知のとおり、1993年には Booker of Bookers にも選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆★] インドほど複雑な事情をかかえた国もほかにはないかもしれない。多民族、多宗教、激動の現代史。本書はその実態をおそらく的確にとらえた、まさにインドそのものといえる作品である。1947年8月、独立の瞬間、深夜0時に誕生した主人公サリームは、奇形に近いグロテスクな風貌の持ち主。この設定からして異形の国インドを思わせるが、ほかの人物や事件もおおむねメタファーとして実際の歴史の流れと一致している。奇人変人がつぎつぎに登場し、悲劇とも喜劇ともつかぬドタバタが連続。いずれも現実を誇張し戯画化したものであり、デフォルメのなかにインドの真実と本質が端的に示されている。サリームをはじめ、「真夜中の子供たち」が超能力をそなえるのはマジックリアリズムの典型だが、このマジックリアリズムも単なる目先を変えた趣向ではなく、非現実、超現実の世界に踏みこむことによって現実の本質を暴くものだ。また叙述形式としては、サリームが自身の伝記に注釈をくわえることでメタフィクションに近づいているが、これも複雑怪奇な現実を整理する、あるいは逆にますます混乱させ、特異性を強調する働きがある。まさしく名実ともに国民文学の傑作である。