ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Amos Oz の “A Tale of Love and Darkness”(2)

 老後の生活は悠々自適と期待していたが、あに図らんや、このところ何かと雑用に追われ、思うように本が読めない。ブログも更新する気になれなかった。そんないま、ボチボチ読んでいるのが Salman Rushdie のご存じ "Midnight's Children"(1981)。
 え、ホントですか、という声が聞こえてきそうだが、ほんとにホントです。なにしろ、ぼくがブッカー賞なるものを知ったのは2000年夏のこと。それまでは、ミステリしか読んでいなかった。
 以来、純文学の追っかけを開始したものの、18年もたってようやく Rushdie とは。手持ちのペイパーバックには、〈KITAZAWA BOOKSTORE〉のシールが貼ってある。北沢書店、懐かしいですね。いまでも健在なのかな。
 ともあれ、いままで積ん読だったのは、あまりにも有名な本で、読んでもいないのに〈いまさら感〉が強すぎて敬遠していたからだ。それに、なんとなくコワモテだった。実際、これは(思ったほどではないが)むずかしい。そこで、ボチボチでんな。
 同書は明らかに〈恥ずかしながら未読シリーズ〉だが、すぐ近くの書棚に鎮座していたのが Amos Oz の "A Tale of Love and Darkness"(2002)。このほど、「そうだ、長い本を読もう!」と決心。"Midnight's Children" ともども引っ張りだしたが、これは何シリーズになるのかな。いつ、どんなきっかけで購入したものか、さっぱり記憶にない。
 いま Wiki を調べたところ、28ヵ国で翻訳され、100万部以上売れた大ベストセラーとのことだが、残念ながら邦訳は未刊のようだ。日本ではあまり知られていない作家の自伝小説だからでしょうか。それとも、最近も何やら〈キナくさい〉イスラエルが舞台ということで、政治的な問題がからんでいるのかな。
 などと知ったかぶりを書いてはいけない。同じく Wiki によると、Amos Oz はノーベル文学賞候補に擬せられたこともある著名な作家ということだが、ぼくはちっとも知りませんでした。これはやっぱり〈恥ずかしながら〉シリーズですね。
 読みはじめたとき、もちろんふつうの小説のつもりで取りかかったが、どうも勝手がちがう。けれども、そのうち本格的に小説らしくなるだろうと思っていたら、なんと Amos 自身が登場。終わってみれば自伝小説、ノンフィクション・ノヴェルというやつでした。
 Amos Oz がノーベル賞候補うんぬん、というのは本当だと思う。本書一冊だけでも、 作家としての実力のほどは十分わかる。... injustice and exploitation are a disease of mankind ... justice is the only medicine: true, a bitter medicine ... a dangerous medicine, a strong medicine that you have to take drop by drop until the body becomes accustomed to it. Anyone who tries to swallow it all at one go only causes disaster, sheds rivers of blood.(p.155)
 こういう倫理観は、Amos Oz が〈キナくさい〉国の作家であるだけでなく、少なくとも19世紀以降の伝統的な西洋文学の主流を継承する大作家であることを雄弁に物語っている。レビューにも書いたが、この "A Tale of Love and Darkness" は、Tolstoy の名作 "Childhood, Boyhood, Youth"(☆☆☆☆)にも「比すべき、いや、あれをもしのぐ傑作である」。Oz が実際ノーベル賞を受賞したあかつきには、間違いなく日本でも翻訳されることでしょう。
(写真は、先月の帰省中に訪れた四国八十八ヵ所霊場、第43番札所、明石寺