ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sally Rooney の “Normal People”(1)

 今年のブッカー賞候補作、Sally Rooney の "Normal People"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)

[☆☆☆] 精神医学はさておき、ノーマルとアブノーマルを峻別する基準はなにか。人間のどんな領域にどんな規範があるのか。これは神なき現代においては、すこぶる興味ぶかい問題のはずだ。ところが、作者にそんな問題意識はまったくない。公序良俗ですらほとんど扱われず、ある人物がまともか否かを決めるのはすべて、家族や友人のあいだで暗黙のうちに成立しているコンセンサスのみ。その実態はあいまいな気分にすぎず、本書の若いカップル、コネルとマリアンヌはいつも他人の物差しに従ったり反発したり、小さなサークルのなかでゆれ動いている。アイルランドの田舎の高校からダブリンの大学まで、ふたりの恋愛のもつれと葛藤が読みどころ。苦悩を通じて成長することこそノーマルな人間の姿なのだと、あらためて思い知らされる。が一方、周囲の男や女たち、とりわけマリアンヌの家族がいかにも浅薄な俗物でステロタイプ。ゆえに彼らと対峙するふたりの正常さもまた型どおりといわざるをえない。水準程度の青春小説である。