ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Orhan Pamuk の “A Strangeness in My Mind”(1)

 トルコのノーベル賞作家、Orhan Pamuk の "A Strangeness in My Mind"(原作2014、英訳2015)を読了。2016年のブッカー国際賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] イスタンブールでトルコの伝統的な飲みものボザなどを売り歩く行商人、メヴリュトの半生を描いた大河小説。彼はいとこの結婚式で見そめた花嫁の妹リーハと駆け落ちして逃げる途中、相手が別人であることに気づく。この書きだしにぐっと引きこまれるが、少年時代から駆け落ちにいたるまでの回想が、悠々たるペースでやや退屈。左右両派の衝突やクルド族、イスラム教徒をめぐる問題など、1960年代以降のトルコ現代史の流れのなかで、メヴリュトの友人やリーハの家族をはじめ数多くの人物が登場、日常的なエピソードがじっくり積み重ねられていく。メヴリュトは結局リーハと結婚し二児をもうけるが、話が錯綜しおもしろくなるのはリーハが上の勘違いを知らされてから。再開発が進み、風景が一変しながら古都の面影をのこすイスタンブール。強盗に襲われ一時は行商を断念するも、愛する女、愛したはずの女と接するうちに「胸の違和感」をおぼえて街をさすらい、伝統の味を人びとに伝えるメヴリュト。「悠々たるペース」に少々忍耐をしいられるが、青春小説と恋愛小説、メロドラマとホームドラマが渾然一体となった力作である。