ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Reproduction" 雑感

 数日前に入ったメールへの対応が、どうやら最後の仕事だったようだ。よもやもうリクエストはあるまい、とやっと安心したところ。
 それまで夜討ち朝駆けとは言わないまでも、チャリンとケータイの着信音が鳴るたびに仕事の入ることが多く、パソコンでも同じメールを読めるように設定してあるので、夕食後にやおらデスクに向かうことさえあった。在宅勤務のつらいところだ。
 おかげで一日のリズムがとれず、おちおち本を読んでいる余裕もなかった。しばらくメールは無視すればいいと頭ではわかっていても、なんとなく気になる。それがストレスとなる。こんなとき、手に取っているのが面白い本であればいいのだけど、あいにくさにあらず。表題作はイマニつまらない。
 そこで思い切って読書はいったん中止。仕事のないときはもっぱら、家の中の片づけや写真の整理といった終活に励んでいた。
 きっかけは、床の間に鎮座している扇風機を押し入れに収納したいと考えたこと。簡単な作業のように聞こえるが、押し入れの中がカオス状態。いろいろな書類や写真、文房具、小物、思い出の品など、ありとあらゆるものが雑然と突っ込んである。それを種類別にまとめ、必要なものだけ残してほかのタンスの引き出しや整理ボックスに移さなくては。と思ったら、なんとそちらもやはり大混乱。いやはや大変な作業だった。まだ完了していない。
 仕事と整理整頓の単調な毎日だったが、それでも先週、北陸に出かけた。在宅勤務が始まる前、新型肺炎がニュースになるずっと以前に予定を組んでいたので中止しようか迷ったけれど、せっかく楽しみにしていたことだし、感染のリスクもまだたぶん低いだろうと踏んで決行した。帰宅して1週間以上たつが、いまのところ無事。今週だったらきっとキャンセルしていたはずだ。
 いちばん行きたかったところは、石川県にあるヤセの断崖。ご存じ『ゼロの焦点』の舞台である。いまでこそ松本清張にはあまり興味がないけれど、大学時代には帰省の際、行き帰りの車中でずいぶんお世話になったものだ。当時は東京からぼくの故郷、愛媛県宇和島市まで陸路で片道約11時間かかり、清張ミステリは旅の友としておあつらえ向きだった。
 初日に現地まで行くのは無理だったので、まず和倉温泉で一泊。途中、金沢で下車し、兼六園を訪れた。『ゼロの焦点』の鵜飼禎子も兼六園近くの旅館に宿泊したことになっている。

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 北陸旅行中は当然ながら、同書を読んでいた。表題作もバッグに詰め込んだものの、結局読みはじめた、というか改めて取りかかったのはきのうから。相変わらず、それほど面白くない。カナダで最も権威のある文学賞、ギラー賞(Scotiabank Giller Prize)の去年の受賞作なのだけれど、現地ファンのあいだでも票が割れていたようだ。
 中断する前のくだりでは、少年時代の Army がぞっこんだった女の子がレイプされ妊娠。産まれた子供 Chariot を Army の母親でシングルマザーの Felicia が引き取って育てる。やがて大きくなった Chariot は Army 相手に親とはどんな存在か、などと話し合う。一方、Felicia は Army の父親と久しぶりに再会。また一方、Felicia の間借り先の家主は彼女に大いに関心を示す。
 いまはもう終盤に差しかかったところで、話は現代に飛んでいる。Chariot は大学生となり、元カノのあられもない姿をネットにアップした一件で大学当局に呼び出されている。
 次々に視点が変化する手の込んだ構成で、それぞれかみ合わない会話の面白さはあるものの、上のように粗筋を書いているだけで、どれもくだらない話だなという気がする。終幕での盛り上がりを期待せず待つとしよう。