ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ian Williams の “Reproduction”(1)

 数日前に昨年のギラー賞受賞作、Ian Williams の "Reproduction"(2019)を読みおえたのだが、これまで諸般の事情というやつで、なかなか感想をまとめる時間が取れなかった。新型コロナウイルスのことも話題にしたいけれど、とりあえずレビューをでっち上げておこう。(きょう現在、表紙のアップは不可能。原書はアマゾン・カナダで入手できます) 

Reproduction

Reproduction

  • 作者:Williams, Ian
  • 発売日: 2020/07/14
  • メディア: ペーパーバック
 

 [☆☆☆] いまだ血は水よりも濃しか、それとも、いまや血は水ほども薄しか。近くて遠い、遠くて近い存在である家族そして親子の絆は、文学における永遠のテーマのひとつかもしれない。その絆を無機的に「リプロダクション(生殖)」と表した本書は、絆の実態を濃淡とりまぜコミカルかつコラージュ風に活写した、いかにも現代的な家庭小説である。ここではふつうの家族関係は存在しない。トロントを舞台に、とりわけ後半、シングルマザーとその息子、息子の父親、レイプで生まれた子供とその祖父が五つどもえで織りなす人間模様はまさしく生殖のたまもので、彼らはそれぞれ愛情で結ばれているとも、いないとも言えるような不即不離の関係にある。ふれあいとすれ違い、はずみながらもかみ合わない会話、発された言葉と心中の脇ぜりふなど、叙述形式もその内容も関連がありそうでなさそうな断片の連続で、いわば濃淡とりまぜた絆の典型例。これこそじつは「ふつうの家族」のありようなのだと思い知らされる。が、だからといって感動までは覚えない。人はお互いに濃密であることを望みながら、ついに希薄たらざるをえない。にもかかわらず濃密たらんと欲している。そういう苦い真実、人生の矛盾に迫らなければ、すぐれた文学作品は生まれない。この点本書は、不即不離という家族の実態をそのまま示すというより、むしろ表面をなぞっただけと評するほうが正しい。その描きかたに斬新な、ただし読むのに煩雑な工夫がほどこされた水準作である。