ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Faulkner の “A Fable”(3)

 きのう、恥ずかしながらロジェ・ヴァディム監督の『危険な関係』を初めて観た。まさにキケンな映画ですな。不倫ゲームがやがてゲームでなくなるなか、遊びにしろ本気にしろ、ジャンヌ・モローはどちらもみごとに演じ切っている。こんなに芸域の広い女優は、多分に不勉強のせいもあって、ほかにちょっと思いつかない。何度舌を巻いたことか。 

危険な関係 Blu-ray

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  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: Blu-ray
 

  この作品、ぼくは知らなかったが、音楽はセロニアス・モンクアート・ブレイキージャズ・メッセンジャーズが担当している。モンクのアルバムは数枚もっているけれど、どれもむずかしい。が、この映画で流れてきた楽曲には、たぶんアート・ブレイキーの功績大だと思うけど、モンクなくノックアウト。いつかこのオヤジ・ギャグを言いたかった。モンクあっか!
 閑話休題。"A Fable" は前回述べた英文構造だけでなく、内容的にももちろん難解な作品である。ぼくにとってまず不可解なのは、前半のアメリカ編がいまだに脱線としか思えないことだ。「舞台は第一次大戦末期の西部戦線。仏軍連隊の伍長は突撃命令に従わず、独軍もなぜか攻撃を中止、奇妙な停戦がはじまる」。この本筋に米兵がらみの逸話をまじえ、変化をつけるのは当たり前だと思うけれど、といって、その前歴をえんえんと読まされた日には、いくらなんでも分量的に度が過ぎるのではと閉口してしまう。フォークナーの専門家の意見を聞きたいところだ。
 それよりさらに疑問なのは、なぜ第二次大戦を題材に選ばなかったのか。本書の刊行は1954年。ところが実際の内容は上のとおり。インタビュー記事なり何なり、この謎を解く文献がのこっているのかどうか、これについても研究者のご教示を仰ぎたいものである。
 参考資料の有無はさておき、いまの段階では勝手に臆測するしかない。ぼくの思うに、おなじ西部戦線でも第二次大戦なら当然、ヒトラーおよびユダヤ人虐殺の問題を採り上げざるを得まい。これを「寓話」として扱うには、さすがにフォークナーとしても荷が重すぎたのではないか。というより、当時はまだあまりに生々しい素材であり、文学作品として熟成させるには時間が不足していると感じたのかもしれない。
 とそんな想像の羽を広げてしまうのも、上の伍長と対話する老将軍が、ひとつ間違えばヒトラーと化してしまう存在のように思えるからである。(この項つづく)