ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Siân Hughes の “Pearl”(2)

 先週末、横浜野毛の〈DOLPHY〉でもよおされたジャズコンサートを聴きにいった。

 同店を訪れるのは今年7月につづいて二度め。こんどもドラ娘が帰省ついでに発案したものだ。当夜の出演者はみんな初耳だったけど、前頭葉で炸裂する音の饗宴に完全にノックアウト。ものすごい演奏ということだけは素人耳にもよくわかった。
 え、そんな有名ミュージシャンを知らなかったとは、あんた、ほんとにビギナーだね、と嗤われそうだが、いちおうパンフに載っているメンバー表をコピーしておこう。板橋文夫(P)林栄一(As)纐纈雅代(As)吉田隆一(Bs)山田丈造(Tp)後藤篤(Tb)高岡大祐(Tuba)太田恵資(Vin)瀬尾高志(B)外山明(Ds)
 コンサートの直前まで近くのワインバーで飲み、ゆうべは娘と家人と痛飲。先週は木曜日の夜も外で飲んだから、このところアルコール漬けといっていい。
 おかげで読書のほうは例によって低調だが、先ほど今年のブッカー賞候補作ランキングをチェックしたところ、デカ本ということでパスしていた Paul Murray の "The Bee Sting" (2023)がなんと第3位にランクイン。あわててアマゾンUKに注文した。
 Paul Murray といえば、2010年のブッカー賞一次候補作 "Skippy Dies"(2010)がとてもおもしろかった(☆☆☆☆)。

 また、同じくショートリストに載っている Paul Harding のほうは、2010年に "Tinkers"(2009)でピューリツァー賞を受賞。こちらも佳篇だった(☆☆☆★★★)。

 この Pauls のほか、今年の賞レースにはもうひとりの Paul が出走している。酔いがさめたところでボチボチ読んでいる、その Paul Lynch の "Prophet Song"(2023)は現在一番人気。詩的な情景描写と、人物の不安・緊張感がなかなかいい。
 一方、表題作はいつかも書いたように、現地ファンの Paul Fulcher 氏が注目していた一次候補作。Paul つながりですな。ともあれこれは、読みはじめたときからちょっと弱いなあと思っていたら、案の定ショートリストでは選外だった。

 上の記事から抜粋すると、「愛情豊かで優しかった母親はなぜ突然、なにも告げず、八歳のわたしをおいて家を出ていってしまったのか。本書の要諦はその謎に尽きる」。「喪失の悲しみと愛の重さを綴った叙情表現に胸をえぐられる。平凡なテーマながら珠玉の小品である」。
 これに付言することはなにもない。ただ、現代の英米文学の趨勢はもっぱら、テーマ的には人種差別や移民問題、内戦や紛争、LGBTといった政治がらみのもの。技法的にはマジックリアリズムメタフィクション。分量的には超大作。それにひきかえ、この "Pearl" はおよそ流行からかけ離れた「珠玉の小品」。それがロングリストに選ばれ、ショートリストで落ちた理由ではないかと思われる。