年が明けても長らく冬眠中だったが、きのうやっと、2021年のギラー賞(the Scotiabank Giller Prize)受賞作、Omal El Akkad の "What Strange Paradise"(2021)を読了。同賞は日本の読者にはなじみが薄いようだが、カナダでは最も権威のある文学賞である。
Omar El Akkad(1982 – )はエジプト出身で、カナダに移住・成人後ジャーナリストとして活躍。小説家としては2017年に "American War"(未読)でデビュー、高い評価を得たとのこと。表題作は第2作である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] タイトルをもじっていえば、「なんと奇妙な結末」。映画『羅生門』以上にあいまいで解釈もわかれるはずだが、主人公の少年アミルはギリシャのリゾート地、コス島に漂着したシリア難民。難破した漁船の同乗者も、戦火や飢餓の絶えない中東の国々から西洋へ脱出しようとした人びとで、いわば楽園幻想にとり憑かれている。ところが現実の西洋はもちろん楽園ではない。その平和と繁栄も虚飾にしかすぎない。それは「なんと奇妙な楽園」か。このテーマに即せば、あいまいな結末も必然のなりゆきといえよう。一方、幕切れ直前まではすこぶる明確だ。少年の漂着以前と以後のエピソードが交互につづく構成で、まず、漁船内の劣悪な環境におけるエゴとエゴの衝突や嵐の襲来は海洋冒険小説のノリ。ついで、島の少女ヴァンナがアミルを助け、不法入国者を取り締まる兵士たちから逃れようとする展開は『宝島』タイプ。どちらも定石どおりだが、ほかに書きようがないほどピタッと決まっている。物語としては無類におもしろく、それをアンハッピーで締めくくるわけにはいかないが、さりとてハッピーも安易すぎる。ゆえに上のテーマとあわせ、「なんと奇妙な結末」になったものと思われる佳篇である。