ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Gale の "Notes from an Exhibition"(1)

 よんどころない事情が重なり、1週間近くブログをサボってしまった。何より恩師が亡くなられたのがショックで、なかなか駄文を綴る気持ちになれなかった。以下は、何日か前に読了した "Notes from an Exhibition" のレビュー。

Notes from an Exhibition

Notes from an Exhibition

[☆☆☆★] 死亡した有名な女流画家の生涯と、その家族の人生を描いた小説で、テーマ的にはべつに目新しいものではないが、構成の面で多少工夫のあとが見られる。各章の冒頭に画家の遺作や遺品の説明があり、それだけ拾い読みすると、さながら紙上回顧展のおもむきだ。本編では、それぞれの展示品にまつわる過去、現在の事件が断片的に綴られ、その断片をつなぎ合わせると、画家と家族の肖像、人生の軌跡が次第に浮かびあがってくる。その描写は一連の細密画でも眺めているかのようで、克明に描かれた各人の人生の重大な瞬間をじっくり楽しむのが本書の醍醐味だろう。惜しむらくは、細部にこだわり過ぎたせいで、話の流れが滞りがちになっている。画家は夫と出会う前、どんな人間だったのか。死の直前、衝動的に取り組んだ作品とは? 末っ子の死の状況は? などなど、いくつか謎も提示されるのだが、謎から当然生まれるはずのサスペンスがどうも高まらない。その点に目をつぶれば、やがて明かされる画家の娘時代の話などよく書けているので、全体的にはまずまず上出来の部類。英語は語彙的にはやや難易度が高いほうだが、イギリスの小説としては標準的なものだろう。