今年のブッカー賞の有力候補作、"Darkmans" の作者 Nicola Barker は経歴を見ると、2000年に "Wide Open" という作品で International IMPAC Dublin Literary Award を受賞している。それが手元にないので、代わりに今年の受賞作の "Out Stealing Horses" を読んでみた。Per Petterson というノルウェーの作家の作品で、Independent Foreign Fiction Prize の06年度受賞作でもある。

- 作者: Per Petterson
- 出版社/メーカー: Vintage Books
- 発売日: 2007/07/13
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…例によってアマゾンに投稿(その後、削除)したレビューだが、これはなかなか拾い物でよかった。賞の発表時に主催者が、こんな小説や作家は「受賞しなければ耳にすることがなかったかもしれない」というコメントを発表しているが、http://www.impacdublinaward.ie/2007/Winner.htm まさにその通りだと思う。ぼくも今まで全く知らなかった。
今年の国際IMPACダブリン文学賞は、05年に発表された英語の小説と、01年から05年までの間に初めて英訳された小説が対象で、ロングリストを眺めると、John Banville の "The Sea" や Geraldine Brooks の "March", Louise Erdrich の "The Painted Drum" など、ぼくが4つ星以上をつけた作品もいくつか入っている。本書がそうした秀作を圧倒しているかどうかは疑問だが、バンヴィルやブルックスは他に賞を取ったのだから、主催者の言うように宣伝効果を考えた選考があってもいい。レコード・アカデミー賞でも、何度かそんな講評を読んだことがある。
で、肝心の本書だが、これは主人公の住んでいる一軒家から湖が見えるし、雪の降るなか、湖畔にたたずんで父親のことを考えたりする場面もあるので、広義の意味で「レイクサイド・サーガ」に含めたい。(いい加減な定義だ)。男は最初の妻と離婚し、長年連れ添った再婚相手が三年前に交通事故で死亡、ついの住みかと定めた森の中の家で犬と暮らしはじめる。孤独な生活の模様はいかにもリアルで、ぼくも老後はそうなるのかなと他人事ではなかった。このあたり、Peter Pouncey の "Rules for Old Men Waiting" を思い出させるものがある。

Rules for Old Men Waiting: A Novel
- 作者: Peter Pouncey
- 出版社/メーカー: Random House Trade Paperbacks
- 発売日: 2006/05/30
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…ペテルソンの作品に話を戻すと、五十年前のイニシエイション篇はまあ定石通りだ。親しい友人と馬を盗みに出かけ、その友人が思いがけない事件を起こして失踪、乳搾りの娘を見て欲情し、年上の女に憧れ、やがて信頼していた父の意外な側面を発見、その父がなんと…よくある話だが、ぼくは夏休みに少年がいろんな体験をする物語が大好きなので、あまりケチはつけたくない。友人の弟との再会や娘の突然の訪問など、現在の生活で起きる事件もよく書けているし、北欧ならではの自然描写も見事。つまり、ここにはパウンシーの作品で覚えたような不満な点がない。受賞をきっかけに「埋もれた」秀作に出会えたことが何よりの喜びだ。