この時期、現代英米小説のファンなら全米図書賞に関心を向け、例えば今年の本命と目される Denis Johnson の "Tree of Smoke" を読むべきかもしれないが、ぼくは何しろ文学ミーハーに過ぎないので、読まず嫌いでいこうと思っている。それより、今年に限らず、アレックス賞の受賞作でまだ読み残している本がいくつもあるので、それをぼちぼち読んでいきたい。昔から小説は女子供の読むものと言われているように、小説には本来、童心に訴える要素が多々ある。その意味で、12歳から18歳までのヤングアダルト向けの推薦図書を選ぶこの賞は、大人も子供も楽しめる良書の宝庫として、日本でももっと注目されるべきだろう。2000年には Kent Haruf の "Plainsong" も受賞しているくらいなのだから。
さて、今年のアレックス賞は周知のとおりだが、http://www.ala.org/ala/yalsa/booklistsawards/alexawards/alex07.cfm このラインアップのうち、ぼくが読んだのはまだ二冊、Sara Gruen の "Water for Elephants" と Diane Setterfield の "The Thirteenth Tale" だけだ。後者はまあ子供だましみたいなものだが、一方、サラ・グルーエンのほうはかなりいい。アマゾンにもレビューを投稿したが、日本の読者の間でも好評を博しているようだ。ただ、ぼくは受賞作の一つ、"The World Made Straight" を書いた Ron Rash に以前から注目している。彼がメジャーな賞を取ったのは、これが初めてではないだろうか。ぼくが読んだことがあるのはデビュー作の "One Foot in Eden" だ。
- 作者: Ron Rash
- 出版社/メーカー: Picador
- 発売日: 2004/01/01
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…これまた投稿レビューだが、ダムの人造湖が最後に出てくるので、「レイクサイド・サーガ」の番外編と言える。面白いのは、ミステリでこそないものの、ユニークな死体処理トリックが出てくること。明らかに殺人が行なわれたはずなのに、死体がどこにも見つからない。さて、どこに隠したのでしょう、というやつだ。未確認だが、本書のトリックは江戸川乱歩の類別トリック集成にも載っていないような気がする。
ともあれ、大げさに言えば存在の根底を揺り動かされるような作品ではないものの、いつもドストエフスキーやメルヴィルばかり読んでいたのでは疲れてしまう。その点、ロン・ラッシュは詩も書いているだけあって比喩表現が美しいし、なにしろ日本では陽の目を見そうにないローカル・ピースということで、田舎者の僕はこんな小説を読んでいるときが本当に楽しい。
今回も前置きが長くなってしまったが、実は、今年のアレックス賞にもローカル・ピースが混じっている。Ivan Doig の "The Whistling Season" だ。電車の中で読んでいるだけなのでまだ読了していないが、実にすばらしい作品である。今日はとりあえず、アレックス賞万歳!とだけ言っておこう。