ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Niccolo Ammaniti の "Steal You Away" と Alberto Moravia の "Boredom"

 ドイツ文学のつぎに読んだのはイタリア文学の作品。正月休みということで軽めの小説を選んだ。

Steal You Away

Steal You Away

[☆☆☆★] 文芸エンタテインメントとでも言うか、深みはないが快調なテンポで綴られた少年小説プラス恋愛小説。内気でおとなしい主人公の少年をはじめ、その友だちの勝ち気な少女、少年をいじめるガキ大将など、登場人物はかなり類型的だが、それに目をつぶって物語の展開に身をまかせれば非常に面白い。イタリアの田舎町が舞台なので、のどかなローカル・ピースかと思えばさにあらず。ガキ大将に脅された少年たちが夜間、学校の教室で破壊行為に及ぶ場面など息をのむばかり。一方、プレイボーイのギタリストが女を見そめてふられたり、女教師のハートを射止めて関係を結んだり、恋愛路線のほうも同じく型通りの展開ながら、評者の頬はゆるみっぱなしで大いに楽しめる…と思ったら、二つの要素がまじわる最後にどんでん返しが待っていた。この種の少年小説や恋愛小説の定型を破る試みとして評価したいところだが、いっそ軽い乗りに徹して爽快な仕上がりにしたほうがよかったのではないか。英語は非常に読みやすい。

 …ニコロ・アンマニーティの作品はハヤカワepi文庫から『ぼくは怖くない』が出ているが、ぼくは未読。同名タイトルの映画も未見だが、内容をネットで調べると、"Steal You Away" と同じくイタリアの田舎町が舞台で少年が主人公のようだ。本書もいずれ映画化されるかもしれない。
 これは亡き殿山泰司風に言えば「くいくい読める」本だ。イタリアへ向かう飛行機の中などで読むと最高に面白いだろう。この作家はとにかくサービス精神が旺盛で、突如沸点に達する暴力シーンや、ごきげんな濡れ場をはじめ、副筋のどんなエピソードも物語性豊かに仕上がっている。人物が類型的で結末が不満などとケチをつけ、3つ星の評価にするのはぼくくらいなものかもしれない。
 本書はこれ以上詳しく分析するほどの作品でもないので、昔読んだモラヴィアの小説のレビューを載せておこう。

Boredom (New York Review Books Classics)

Boredom (New York Review Books Classics)

[☆☆☆★★★] 映画は未見だが、Hな作品に仕上がっているのではないか。と推測するゆえんは、本書が一種のロリータ物で、かつ「例の場面」が多いからだ。とはいえ、さすがモラヴィアだけあって、通常のポルノとは一線を画しており、「倦怠」を追い求めるがゆえに若い娘との「恋愛」の深みにはまっていく中年男と、その男に身体を許しながら、決して心までは許さない娘の関係がとても面白い。それはひょっとしたら、カフカの『城』におけるKと城の関係と同じかもしれない、とも思ったが、たぶん深読みだろう。ともあれ、不条理な恋愛物語を存分に楽しめることはたしか。テーマにふさわしい無機質的?な文体だが、英語は易しい。

 …モラヴィアもアンマニーティ同様、人生の重大な問題を追求するタイプの作家ではないが、決して軽いとは言えない。ぼくは英訳で五冊も読んだが、その精緻な心理描写にはいつも感心させられる。同じ少年小説にかぎっても、たとえば "Agostino" と上の "Steal You Away" の差は歴然としている。"Agostino" はいわゆるイニシエイション物のマイルストーン的な名作だ。細部はすっかり忘れてしまったが、ルイ・マル監督の映画『好奇心』に近い世界が描かれていると言えば充分だろう。

Two Adolescents: The Stories of Agostino & Luca

Two Adolescents: The Stories of Agostino & Luca