ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Adriana Trigiani の “The Shoemaker's Wife” (1)

 アメリカのベストセラー作家 Adriana Trigiani の最新作、"The Shoemaker's Wife" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The Shoemaker's Wife: A Novel

The Shoemaker's Wife: A Novel

Shoemakers Wife

Shoemakers Wife

[☆☆☆☆] これはまず〈大衆恋愛小説〉の極北である。イタリア・アルプスの山村で美少年と美少女が出会って恋に落ちるが、予想どおり2人が結ばれるまで波瀾万丈というしかない。運命のいたずらによるすれちがい、逆境につぐ逆境、恋敵の出現、偶然の再会、さらにまた別離。定石どおりの紆余曲折だが、少年も娘も純情そのもので、恋の成就をつい見とどけたくなってしまう。そんな主役をはじめ、2人に救いの手を差しのべ、あるいは悪意を示す脇役陣にいたるまで、類型的ではあるが類型を類型と感じさせないほど心理がみっちり書きこまれ、いずれも存在感のある人物に仕上がっている。それゆえ、定番の流れと思いつつ、彼らの真心に打たれ、善意にほだされ、また悪意に怒りを覚える。室内外の風景はもちろん、服装や料理など、どの場面でもきめ細かい描写が積み重ねられる一方、事件が起きるときはじつにダイナミックな展開となる。この緩急自在の構成が、上の緻密な人物造形と相まって、読者をますます物語の中に引きこんでいくのだ。まさに名人芸である。こうした恋愛小説のほか、本書では〈大衆歴史小説〉としての要素も大きい。少年と少女の家族の歴史を通じて、20世紀前半、アメリカに渡って塗炭の苦しみを味わったイタリア系移民の歴史が、はたまたアメリカ社会の成長過程が、2つの世界大戦をはさんでみごとに描きだされている。恋愛に歴史を取りこむのもプロの仕事なのだ。その恋愛が家族愛へと発展し、また多くの障害ゆえに、深い悲しみゆえに愛が純化していく。結末はやや出来すぎの感があるものの、随所に泣かせる場面があり、大衆小説として楽しむのがいちばんである。英語はクセのない標準的なもので読みやすい。