ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Adriana Trigiani の “The Shoemaker's Wife” (1)

 アメリカのベストセラー作家 Adriana Trigiani の最新作、"The Shoemaker's Wife"(2012)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] これはまず〈大衆恋愛小説〉の極北である。イタリア・アルプスの山村で美少年と美少女が出会って恋に落ちる。まるで絵に描いたような設定で、ふたりが結ばれるまでも波瀾万丈。運命のいたずらによるすれちがい、逆境につぐ逆境、恋敵の出現、偶然の再会、さらにまた別離。まさに定石どおりの展開だが、少年も少女も純情そのもので、恋の成就をつい見とどけたくなってしまう。脇役陣のほうも存在感たっぷりで、主役のふたりに救いの手を差しのべたり、逆に悪意を示したり、いずれの心理もみっちり書きこまれ、類型を類型と感じさせない人物ぞろいだ。また室内外の情景、服装や料理などについてもきめ細かい描写がつづき、それがいざ事件が起こったとたん、じつにダイナミックな動きに激変。この緩急自在の名人芸が、読者をますます物語の渦中へと引きこんでいく。こうした恋愛小説のほか、本書では〈大衆歴史小説〉としての要素も大きい。少年と少女の家族の年代記を通じて、20世紀前半、アメリカに渡って塗炭の苦しみを味わったイタリア系移民の歴史が、はたまたアメリカ社会の変遷が、ふたつの世界大戦をはさんでみごとに描きだされる。これまた定番の背景ともいえるが、多くの障害ゆえ、深い悲しみゆえにふたりの愛はいっそう純化していく。結末はややできすぎの感があるものの、随所に泣かせる場面があり、至福のひとときが過ごせる文芸エンタテインメントである。