ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Nikos Kazantzakis の “Zorba the Greek”(1)

 数日前、ギリシャの作家 Nikos Kazantzakis(1883 – 1957) の "Zorba the Greek"(1946, 英訳1952)をやっと読了。が、家内外の清掃その他、なにかと雑用に追われ、レビューをでっち上げる時間がなかなか取れなかった。
 本書はギリシャの映画監督マイケル・カコヤニコスによって映画化(1964)。邦題は『その男ゾルバ』で、ゾルバを演じたのはフェリーニ監督の『道』でおなじみの名優アンソニー・クイン。未見だが、風貌的にもキャラ的にもさぞ適役だったものと思われる。さてレビューもどき、いったいどうなりますやら。

Zorba the Greek

[☆☆☆★★★] 牽強付会の暴論だが、これはギリシア神話ギリシア哲学を融合したような作品ではないか。天衣無縫、女好きで酒好きで、踊りも好きなゾルバはディオニュソス。数多くの書を読み、神と人間、善悪の問題などに思いをめぐらす無名の語り手はソクラテス。この動と静、対照的なふたりの人物には共通点がある。どちらも心に傷を負い、その傷とはまたべつに心中にひそむ悪魔を気にかけている。ゆえに彼らの人生は苦悩と忍耐の連続だが、ゾルバの場合、たとえば関係した女の死に涙し、「この世で起こることはすべて不正」と嘆く一方、けっして絶望に沈むことなく、青年から依頼されたクレタ島の鉱山監督の仕事に情熱を傾注。大失敗してもクサらず、終始陽気にふるまう強靱な精神力の持ち主である。そんなゾルバに語り手の青年もしだいに感化され、魂の救済を求める内面的な「生死の戦い」を経て、人生を形而上学で理解するのではなく、体内に流れる熱い血で生きぬくことこそ、かえって「精神的な高み」へと達する道なのだと実感する。その熱い血の権化ゾルバのコミカルな言動に笑いを誘われ、傷つきながらも人生を肯定して踊る姿に勇気を与えられる佳篇である。