今日は土曜にもかかわらず出勤。今年最後の繁忙期だ。帰宅して何とか時間ができたので、昨日読みおえたニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー、Jamie Ford の "Hotel on the Corner of Bitter and Sweet" のレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★★] 第二次大戦中、シアトルで知りあった中国系の少年ヘンリーと日系の少女ケイコ。
日系人の強制収容という悲劇に見舞われた2人の純愛は悲しいまでに美しく、とりわけケイコのために献身的に尽くすヘンリーの一途な真心には、それが実を結ばぬとわかっているだけになおさら胸を打たれる。まさしく「ほろ苦い」青春小説、恋愛小説だが、その「ほろ苦さ」がまた強制収容の不条理、悲劇性を実感させるゆえんともなっている。頑固で大の日本人嫌いの父親や、夫と息子の板ばさみに苦しむ母親、ヘンリーに何かと手を貸す黒人のサックス奏者、無愛想だが根は優しい白人の料理女、ヘンリーをいじめる年上の少年など、どの脇役もツボを押さえた働きぶり。40数年後、妻を亡くしたヘンリーの息子とその白人のフィアンセも同様で、以上の脇役陣との交流や対決を通じて親子の断絶と和解、人種差別、さらには強制収容の問題が描かれる。その結果、本書は純粋な愛情や友情の美しさをストレートに表現して感動的であると同時に、ただの「ほろ苦い青春小説、恋愛小説」にとどまらない大人の小説へと熟成している。それにしても、ひたすらケイコを思いやるヘンリーの真心には理屈ぬきに感動を覚える。英語はごく標準的で読みやすい。