いま珍しくミステリを読んでいるのだが、年度初めで多忙を極め、思うように進まない。去年の1月だったかに読んだ "Restless" のレビューでお茶を濁しておこう。
- 作者: William Boyd
- 出版社/メーカー: Bloomsbury Publishing PLC
- 発売日: 2007/03/05
- メディア: ペーパーバック
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…06年度のコスタ賞長編賞の受賞作。最優秀作品賞は Stef Penny の "The Tenderness of Wolves" にさらわれてしまったが、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080118/p1 どちらもミステリとミステリ以外の境界線上にあるような作品である点が面白い。本書など、もし作者がル・カレだったら、とうの昔に「娯楽小説」として翻訳が出ているはずだ。その意味では、「純文学作家」ウィリアム・ボイドは日本では損をしていることになる。
もっとも、本書がいまだに未訳なのはボイド自身にも責任がある。ぼくはもともとスパイ小説が大好きだったので面白く読めたが、「何が『斬新な切り口』かと言いたくなる」ことも事実だからだ。この素材なら、グレアム・グリーンやル・カレのほうがもっとうまく料理していただろうと思うし、そもそも、人間不信というテーマをいまどきスパイ小説の形で訴える意味がわからない。それに較べ、たとえばル・カレの『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』などは非常に優れた作品だったのだな、と昔を思い出してしまった。