ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sara Baume の “Spill Simmer Falter Wither” (1)

 あと1回だけ Han Kang の "The Vegetarian" について補足しようと思っていたのだが、この週末に Sara Baume の "Spill Simmer Falter Wither" を読了。2015年のコスタ賞新人賞候補作である。こちらのレビューを先に書いておこう。

[☆☆☆★★] 途中でやっと気づいたのだが、タイトルは四季のもじり。初老の男が犬と出会って別れるまでの一年間を綴った四季録である。ひととペットの交流というと一定の図式を連想するが、本書は感傷を適度に抑制。テンポのいい実況中継ふうの文体で男の目から日常のできごとや風景を描き、そこにさりげなく犬を登場させる。身体の不自由な独身男は変人扱いされ、他人との接触を極力避けている。犬も片目で醜い顔。似たもの同士の飼い主と犬で、男は次第に犬に愛着をおぼえる。そこにいり混じるのが男の少年時代からの回想で、母親の記憶はなく、父親から愛情をそそがれたこともない。そんな孤独な人生と、犬とのふれあいを物語る時間と場面の転換が鮮やかだ。男が犬ともども車上生活をはじめる夏以降はロード・ノヴェルで、テーマは心の彷徨の旅。ひと目を避け、社会から逃れつづける男の過去と現在のなかで犬が活発に動きまわる一方、行間から静かな深い悲しみが伝わってくる。ペットとの交流物語の定型をやぶった佳篇である。