ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Charlotte Mendelson の "When We Were Bad"

 今年のオレンジ賞の最終候補作、Charlotte Mendelson の "When We Were Bad" をやっと読みおえた。

When We Were Bad: A Novel

When We Were Bad: A Novel

[☆☆☆★★★] かなり愉快な家庭小説の秀作。ロンドンに住むユダヤ教の女性ラビを中心に、ラビ一家の家庭問題が次々に噴出する。まず、長男が結婚式の直前、なんと式をとり行なうラビの妻との関係を公表、そのまま駆け落ちするという大ハプニング。やがて親子の断絶、夫婦のすれ違い、兄弟姉妹の確執、育児ノイローゼ、浮気などなど、事態はそれぞれ題名どおり最悪だが、コミカルなタッチで描かれ、生き生きとした文体と相まって明るい悲喜劇に仕上がっている。映画で言えば小刻みなカットが連続し、カットごとに人物の視点が変化するなか、日常茶飯の光景に浮き沈む心理がうまく織りまぜられ、その悲喜こもごもが大いに楽しめる。長女が夫と別れ、幼い子供を連れて家を飛び出してしまうので、嵐はコップの外にまで広がっているものの、テーマは家族愛であり、本質的にはコップの中の嵐。その点が物足りないと言えば物足りないが、ホームドラマの定石でもあり、これ以上を望むのはないものねだりかもしれない。英語は難解というほどではないが、語彙レヴェルは比較的高い。

 …4月15日の日記にも書いたように、これはガーディアン紙が選んだ昨年度の年間優秀作品でもある。去年はオレンジ賞の発表前に候補作を3つ読み、アディーチェの受賞を確信したものだが、今年は今のところペイパーバックで読めそうな候補作が少ない。従って、ペイパーバック・リーダーのぼくとしては、Rose Tremain の "The Road Home" も気になるものの、今年のオレンジ賞の本命はこの "When We Were Bad" だと宣言するしかない。
 読後感は上のレビューに尽きているが、付け加えるなら、こまぎれに読んだわりには印象がぼやけなかった。カット割りが短いうえに、話がどんどん発展するのではなく、どのページを開いても、「コップの中の嵐」という意味では同じようなシーンの連続だったからだ。それゆえ、人間性を深く洞察したアディーチェの "Half of a Yellow Sun" と較べるといささか見劣りするが、ユーモラスな筆致にはつい顔がほころんでしまうし、家族愛を描いた家庭小説としてはほぼ完璧な仕上がり。まあ、本命に推してもいいだろう。