前回は Charlotte Mendelson の "When We Were Bad" について書いたので、今日も家庭小説を採りあげることにした。
- 作者: Edward St Aubyn
- 出版社/メーカー: Picador
- 発売日: 2006/09/23
- メディア: ペーパーバック
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…例によって昔のレビュー。ぼくは文学史などろくに勉強したことがないので、家庭小説の系譜がどうなっているのかよく分からないが、古くはオースティンの諸作に『若草物語』、現代の代表的な作家としてアン・タイラー。ざっとそんな読書体験から言うと、大河ドラマ的なファミリー・サーガは別にして、家庭小説とはおおむね「コップの中の嵐」を描いたもの、という偏見を持っている。家族の誰かが何らかのトラブルや精神的危機におちいり、すったもんだするが、結局は丸く収まる。配偶者の死や離婚など、いくらか悲劇的な要素はあっても、主な登場人物は花も嵐も踏みこえて気分一新、再スタートを切る。"When We Were Bad" もまさしくそんな小説だった。
そういう定石からすれば、この "Mother's Milk" はかなり斬新な切り口を見せていると思う。最初、幼い子供なのに大人なみの知能を発揮する長男の話が続いたときは、てっきりSFかと思ったくらいで、やがてそれがお定まりのドタバタ騒ぎに紛れこんでしまったのは実に残念。騒ぎそのものは "When We Were Bad" と似たり寄ったりだが、同じコメディー調でも皮肉が効いているぶん、Edward St. Aubyn のほうが突っこみが鋭い。
ただ、いくら「非常に深刻で現実的」な問題が提出されていると言っても、本質的には「コップの中の嵐」に過ぎない。だからどうした、と反論されればそれでおしまい。力作ではあるのだが、せっかくの新しいアイディアを活かしきれず、底の浅さをカバーするまでには至っていない。その辺が賞レースでキラン・デサイの後塵を拝した原因かもしれない。