ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Balzac の “Old Goriot”

 トーマス・マンの "Confessions of Felix Krull, Confidence Man" を読んでいるのだが、英語は易しいのにどうも進まない。そこで今日は、昔のレビューでお茶を濁すことにした。
 追記:本書は2004年に映画化されました。

Old Goriot (The Human Comedy)

Old Goriot (The Human Comedy)

[☆☆☆☆] 中学時代に邦訳で読んだときは印象が薄かったが、このたび英訳で読み返してみると、『従妹ベット』には一歩譲るものの、まことに面白く、モームが世界の十大小説の一つに本書を選んでいるのも当然と実感した。昔は分からなかった、バルザック一流の人間観察の妙を楽しめるようになったのは、それだけこっちが年をとったということか。つまりこれは、読者にある程度の人生経験を要求する作品だと思う。一見美しいものの裏に醜い面があり、上流とされる人々に下品な要素がある。そして善人は、そういう「悪」の前になすすべもない…ただし、バルザックは冷笑家ではない。その筆致には心暖まるものがある。初学者には、英語学習のテキストとしても推薦できる。

 …海外文学のとりこになってから、夏になると3年前までフランス文学の古典も英語で読んでいた。最初に取り組んだのがバルザックの "Cousin Bette" で、これは本当に圧倒された。主人公は間違いなく、小説に登場する世界三大悪女の一人である。(あとの二人は選考中)。

Cousin Pons: Poor Relations, part two (The Human Comedy)

Cousin Pons: Poor Relations, part two (The Human Comedy)

 次いで、同じくバルザックの "Cousin Pons", フローベールの "Sentimental Education", スタンダールの "The Charterhouse of Parma" といったところを夏に読んだ。今年も久しぶりにフランス文学から何か読みたかったのだが、もう夏も終わりに近い。「文学のお勉強シリーズ」もそろそろ打ち止めにしなくては。
 上のラインナップを見て改めて思ったのだが、Richard Pevear と Larissa Volokhonsky の夫妻が英訳した "The Idiot" の英語はじつに鮮烈だ。夫妻の労作は、ドストエフスキートルストイチェーホフゴーゴリに及んでいる。ぼくはトルストイを除けばすべて入手しているので、老後が楽しみだ。
 …バルザックからずいぶん脱線してしまったが、フランス文学の古典は「英語学習のテキストとしても推薦できる」ものの、Pevear と Volokhonsky の夫妻の訳業と較べると、英語はどれもいささか古風と言わざるを得ない。新鮮な英語で古典を楽しめる改訳が早く行なわれることを期待したい。