ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Olivia Manning の “The Balkan Trilogy”(2)

 前々回、コロナの時代の読書はどうあるべきか、と書いた。大げさな問いのわりに、他愛もない答えだったが、それを故内藤陳ふうにまとめると、「読まずに死ねるか!」「読まずば二度死ね!」 早いところ、名作・傑作を読もうというわけだ。
 亡き恩師も、若いうちに西洋の古典を読め、としきりにおっしゃっていた。日本のものは年をとってからでも読める、というのがその理由だった。そして老年になったいま、やはり恩師の言うとおりだったと実感している。
 一方、もうひとりの亡き恩師には、どんなにつまらない小説でも、英語で読むかぎり、必ずなんらかの発見がある、とも教えていただいた。古典の読書を王道とするなら、昔から道草ばかり食ってきたぼくとしては、なるほどそのとおり、と思うことが多い。
 この "The Balkan Trilogy" にしても、たしかに「文学史にのこるほどの名作ではない」のだけれど、決してつまらなくはなかった。とりわけ、主な登場人物について、「それぞれの性格と心理、価値観を丹念に書き込」んであるところが、いかにも昔のイギリス小説らしく、面白かった。その面白さは、もし邦訳があるとして、日本語で読めばおそらく半減したのではないかと思われるほどだ。
 とはいえ、これは結果的に、せいぜい佳作どまりの作品にすぎない。その理由についてはレビューで明らかにしたつもりだ。たぶん勘ちがいだろうが、それはさておき、コロナの時代ということで名作・傑作ばかり読んでいると、本書のように文学史上、忘れられた作品を読む機会にはついぞ恵まれなくなる。なぜ文学史にのこらなかったのか、なぜ凡作・駄作なのかと自分の頭で考える機会もうしなわれてしまう。それは決していいことではない。困った時代になったものだ。

(写真は永平寺。2月に撮影)

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