ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Thomas Mann の “Confessions of Felix Krull, Confidence Man”(1)

 Thomas Mann の "Confessions of Felix Krull, Confidence Man" を読了。予想以上に時間がかかってしまった。元来のボケと夏バテ、夏風邪のせいだろう。(追記:以下のレビューは読みが甘く、いつか再読したいと思っています)

Confessions of Felix Krull, Confidence Man: The Early Years (Vintage International)

Confessions of Felix Krull, Confidence Man: The Early Years (Vintage International)

[☆☆☆★★] 最後のページを読んでやっと、これが未完であることに気がついた。そうと知って取り組めば、それなりの心構えもあったのに。何しろ題名と異なり、巻末が近づいてもさっぱり詐欺の告白が始まらないのが不思議だった。主人公が侯爵になりすます一件も侯爵と合意の上なので、厳密には犯罪とは言えない。結局、完成部分は大長編の序盤に過ぎない印象を与えるが、読んだ範囲から判断する限り、陽気なピカレスク・ロマンもどきといったところ。辛辣な社会諷刺は見られないし、主人公もまだ犯罪者ではないのが「もどき」のゆえんだが、売春婦の愛人になったり、色情狂のような貴婦人と関係したり、ホモっ気のある初老の紳士に見そめられたり、ロマンの部分はかなり面白い。将来の詐欺師らしく演技力抜群で雄弁、美貌にも恵まれた主人公が、ホテルのボーイから一転、侯爵として世界一周旅行に出かけるという筋立ては、完成していればさぞ波乱に富んだ大ロマンに仕上がっていたことだろう。とはいえ、古生物学者が生命と進化、宇宙、存在と無といった哲学論をえんえんとぶつ脱線もあり、やはりトーマス・マンのねらいを即断するのは禁物だと思う。が、情熱的な闘牛の場面から同じく情熱的なキスシーンへと移り、そこへ意外にも…という中断した展開から察するに、主人公がいろいろな失敗を重ねつつ、また恋をしつつ、幸運を信じて陽気にふるまいつづける姿だけは想像に難くない。いささか古風で典雅、装飾的な英語だが、これは原語の文体を反映したものだろう。

 …これも大作で疲れた。しかも、最後は思わず、え?と肩すかし。てっきり落丁ではないかと、昔買った新潮社版のトーマス・マン全集(絶版)をあわてて引っぱり出したほどだ。作者の死で未完に終わったから仕方がないが、とにかく不完全燃焼。今日はおしゃべり編など書く気がしない。