ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Steve Toltz の "A Fraction of the Whole"

 Steve Toltz の "A Fraction of the Whole" をやっと読了。ぼくが読んだのは Spiegel & Grau の米版だが、英版では700ページを超える大作である。

A Fraction of the Whole

A Fraction of the Whole

  • 作者:Toltz, Steve
  • 発売日: 2008/02/12
  • メディア: ハードカバー
A Fraction Of The Whole

A Fraction Of The Whole

  • 作者:Toltz, Steve
  • 発売日: 2008/05/29
  • メディア: ハードカバー
[☆☆☆★★] 非常に長い小説だが、一口に言えば、有名な犯罪者を弟にもつ兄の生涯を中心に、その息子がしたためた一家の年代記。恋愛や生と死をめぐる葛藤、人生の価値や存在の意義の模索、アイデンティティの追求などが描かれる一方、型どおりの通説で満足し、物事の表面しか見ようとしない世間一般の人々に対する痛烈な批判もある。それが表紙の紹介のように、「現代世界の告発」という水準にまで達しているかどうかはさておき、華々しい活劇や三角関係などの奥に深い思索がめぐらされていることは確かだ。こう書くとシリアス一辺倒のようだが、実際は違う。饒舌にしてコミカル、よくまあこんなエピソードを連続して思いつくことかと呆れるばかりのドラマティックな展開。本質的にはサービス精神満点のメロドラマでもある。その通俗性と並行して上述の深いテーマが語られる。…とまあ、途中までは感心して読んでいたのだが、以上の仕掛けが見えたとたん、あとはどんなに意外な事件が起きても驚かなくなり、楽しめるはずの饒舌も鼻につき、結局、心の底を揺り動かされるような感動は得られなかった。英語は難易度の高い表現も散見されるが、総じて標準的なものだと思う。

 …46人のカスタマー評の平均が星4つ、という英アマゾンにおける評判を知り、これは行けそうと思って読みだした。事実、最初から3分の2くらいまではとても面白かったのだが、そのあと前にも書いたように飽きてしまい、最後はかなり退屈だった。改めて英アマゾンのレビューを読んでみると、途中で投げ出してしまった人もいるようだ。
 食傷の原因は単純で、いくら刺激が強くても、やがてそれに馴れてしまうということだ。最後まで感覚が麻痺することなく、スケールが大きくて劇的な展開を楽しめる読者もいるはずだが、ぼくは終盤、どんなエピソードを読み、その合間に語られるどんな思索に接しても、ああまたか、としか思えなかった。それまでに作者は言いたいことをほぼ言い切っている。それなら何もこんなにゴチャゴチャ書き足さなくてもいいのに、と鼻白んだのだ。
 とはいえ、そんな愚痴をこぼすのも、それだけ大長編を読む体力が落ちているのかもしれない。全体として悪い出来ではないので、今年のブッカー賞の有力候補に挙げてもいいだろう。