ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rachel Seiffert の "Afterwards"

 Philip Hensher の "The Northern Clemency" はまだ手元に届かないし、つなぎに読みはじめた本もまだ途中。そこで今日は毎度おなじみ、昔のレビューでお茶を濁すことにした。 

Afterwards (Vintage International)

Afterwards (Vintage International)

[☆☆☆★] ハッピーともアンハッピーとも言える鮮やかな幕切れがとても印象的(単細胞の評者はハッピー派)。この結末から男と女の出会いをふりかえると、「人を愛するためには、そのすべてを知る必要があるのだろうか」という表紙のコピーが泣かせる。もっとこのテーマに絞り、現在進行形の男女関係をさらに発展させたほうが秀作に仕上がっていたのではないか。しかしながら、前作『暗闇のなかで』でナチスの悲劇を採りあげたシーファーは、本書でも過去の負の遺産のほうに関心があるようだ。北アイルランド問題とコロニアリズム。この二つがイギリス人にとって、いまだに深い心の傷であり続けていることが詳細に綴られる。その象徴が射殺と爆撃を描いた冒頭場面で、それにかかわる二人の人物のトラウマが次第に明示されるという展開。思わず引きこまれるくだりもあって水準には達しているが、掘り下げが足りず、トラウマの説明という感傷的なアプローチに終わっているのが惜しい。英語は省略表現が多く、最初はやや読みにくいが、物語の流れに乗ってしまえば大丈夫だろう。

 …去年の6月だったか、ひょっとしたらブッカー賞の候補になるかも、と当てこんで読んだのだが、ロングリストにかすりもしなかった。やっぱり先取りはむずかしい、と実感したものだ。よって、今年はすべてあと追い。しかも追いかけるのは、前回レビューを書いた Steve Toltz の "A Fraction of the Whole" 以外に、上の Philip Hensher のものだけになりそう。ペイパーバックで買える短めの候補作が多いといいのに、と溜息をついている。