ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Steven Millhauser の "Dangerous Laughter"(1)

 昨日の雑感に書いたように、スティーヴン・ミルハウザーの新作短編集 "Dangerous Laughter" をやっと読みおえたので、いつものようにレビューを書いておこう。

Dangerous Laughter: Thirteen Stories (Vintage Contemporaries)

Dangerous Laughter: Thirteen Stories (Vintage Contemporaries)

[☆☆☆★] ひさしぶりにミルハウザーの短編集を読んだが、かなり楽しめる反面、期待したほどではなかった。例によって細部の描写は精緻を極め、しかもリアルな描写から異形の世界が見えてくる。巻頭のシュールな「トムとジェリー」風の物語と第1部は、大げさに言えば人間存在の意味をフィクション化したもの。白眉は「闇の中の少女」とでも題すべき第3話で、細部の描写を通じて異次元への扉をひらき、彼方の存在を認識しようとする試みの中に青春小説の味わいもある。表題作は、笑いという日常的な行動が極端に走って非日常化する物語で、このプロセスは第2部全体にも当てはまる。バベルの塔を思わせる第9話に代表されるように、モノマニアックな衝動によって現実が非現実化し、論理が非論理化しているのだ。第3部も同じ文脈で、絵に描いたハエが飛びたち、絵中の人物がダンスをはじめ、やがて現実と絵画の世界が溶解…という第12話が物語るように、やはり非現実化、非日常化、非論理化がテーマ。これを支えるのがテーマにふさわしいモノマニアックな描写で、まさにミルハウザーの真骨頂。が、通読してみるとワン・パターンが目立ち、しかも意外に内容は深くない。早い話がこれを読んでも、目から鱗が落ちるような人間に関する発見は得られない。とすれば、こんな異形の世界を創出する意味はどこにあるのだろうか。会話がほとんどなく地の文の連続だが、語彙レヴェルとしては標準的で読みやすい。