ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jayne Anne Phillips の "Lark & Termite"(1)

 多忙その他、諸般の事情で遅れに遅れていた Jayne Anne Phillips の "Lark & Termite" をやっと読みおえた。去年の全米図書賞ならびに全米批評家(書評家)協会賞の最終候補作である。この本については、すでに雑感で言い尽くしたような気もするが、とりあえずレビューにまとめておこう。

Lark and Termite (Vintage Contemporaries)

Lark and Termite (Vintage Contemporaries)

[☆☆☆★★] 男女の愛と家族愛を鋭い感覚で描いた佳作。主な舞台は朝鮮戦争まっただ中の韓国と、その約10年後、ウェスト・ヴァージニアの田舎町。身重の妻を残して従軍したアメリカ兵が二人の出会いをはじめ、志願してから戦争にいたるまでの経緯、激化する戦闘の模様などを語ったあと、一転して若い娘に視点が変わり、言葉も行動も不自由な障害者の弟、二人が世話になっている伯母などが登場。さらにその伯母、弟へと視点が移る。妻を思うアメリカ兵、弟を思う姉、その2人の子供を思う伯母のそれぞれの愛情がストレートに胸を打ち、具体的な人物関係がわかればわかるほど泣ける。終始一貫、パチパチと電気が走るようなパワフルな文体で、とりわけ障害児のくだりでは、視覚や聴覚など五感に訴えるみずみずしい描写が冴えわたる。兵士の妻、子供たちにとっては母親の姿が周囲の人物の回想によって次第に浮かびあがるという「間接話法」も見事。ただし、視点が一巡したあとの展開が定石どおりでワンパターン、結末もほぼ見当がつき意外性に欠ける。英語はまずまず標準的で読みやすい。