ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jayne Anne Phillips の "Lark & Termite"(1)

 多忙その他、諸般の事情で遅れに遅れていた Jayne Anne Phillips の "Lark & Termite" をやっと読みおえた。去年の全米図書賞ならびに全米批評家(書評家)協会賞の最終候補作である。この本については、すでに雑感で言い尽くしたような気もするが、とりあえずレビューにまとめておこう。

[☆☆☆★★] 男女の愛と家族愛を鋭い感覚で描いた佳作。朝鮮戦争中の韓国と、約十年後、ウェスト・ヴァージニアの田舎町の物語が平行して進む。従軍した青年ロバートは妻ローラとの出会いをはじめ、志願してから戦争にいたるまでの経緯や、激化する戦闘の模様などを述懐。それが一転、こんどはロバートの娘ラークが語り部となり、弟のターマイトや、ふたりを養育している伯母のノニーも登場。時代が交錯し、視点もつぎつぎに変化するうち家族の秘密が明らかになる。身重のローラを思うロバート、ことばも身体も不自由な障害児ターマイトを思うラーク、実子でもないふたりを思いやるノニー。それぞれの愛情がストレートに胸を打ち、彼らのおかれた具体的な状況がわかればわかるほど、泣ける。視点が一巡したあとの展開が定石どおりで、結末もほぼ見当がつき意外性に欠けるものの、終始一貫、パチパチと電気が走るようなパワフルな文体で、とりわけターマイトのくだりでは、視覚や聴覚など五感に訴えるみずみずしい描写が秀逸。子どもたちが目にしたこともない母ローラの姿が周囲の人物の回想によって浮かびあがる「間接話法」もみごと。書きようによっては平凡なテーマでも深い感動を呼ぶ好例である。