ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alden Bell の “The Reapers Are the Angels”(1)

 今年のアレックス賞受賞作の一つ、Alden Bell の "The Reapers Are the Angels" を読了。例によってさっそくレビューを書いておこう。

The Reapers Are the Angels

The Reapers Are the Angels

[☆☆☆★★] まさかこんな結末が待っているとは…。巻頭から終幕寸前までは、まぎれもなくホラー小説、破滅テーマのSF、冒険小説である。ゾンビが跳梁する終末の世界にあって、孤児院育ちの15歳の少女が超人的な戦闘能力を身につけ、襲いかかるゾンビや異様なモンスターを完膚なきまでに撃退。その凄惨な殺戮シーンは映画なら目をそむけたくなるほどで、陳腐な形容句だが、ただもう迫力満点と言うしかない。だが、少女には悲しい過去があり、彼女は心の中で深く傷つきながら、また、いくら生き残るためとはいえ自分の所業に罪悪感をいだきながら、いざ危険が迫ったとたん反射的に行動する。本書はそんなタフでハードな少女戦士の精神的な成長を描いた青春小説でもあるのか、と予想していたら、想像を絶する結末に読後、しばらく茫然となってしまった。その結末から冷静に全体をふりかえると、戦士としての少女の凄まじい人生は、ただ凄まじいだけでなく、じつは人間の尊厳を守ろうとする感動的な生き方であったことがわかる。「ゾンビ小説」を読んで深い感動が静かにわき上がってくるとは、これがいちばん予想外のことかもしれない。ともあれ、ジェットコースターにでも乗ったようにアクション・シーンを見続けたあと、この結末。見事な作品である。英語は、難易度の高い単語も散見されるが総じて読みやすい。