一昨年のフランク・オコナー国際短編賞受賞作、Simon Van Booy の "Love Begins in Winter" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 愛の喜びと悲しみに満ちあふれた好短編集。なんらかのかたちで子どもが、あるいは子ども時代の思い出が「愛の引き金」となっているのが特色。巻頭の表題作では、死んだ幼なじみの少女のことが忘れられない世界的に有名なチェロ奏者と、やはり幼いころ弟を亡くした女が運命的に出会う。最後の第5話では、絶望の淵に沈む男が、突然送られてきた幼い少女の写真を見て家族の絆を思い出す。各篇とも親子や兄弟姉妹、男女の愛に人生の傷が重なり、胸をかきむしられるような瞬間がある。それは同時に、子どもの存在が、子ども時代の記憶が、人生の決定的な要素として浮かびあがる瞬間でもある。読者自身、わが子や遠い昔の自分、旧友などにしみじみと思いをはせることだろう。