ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2011年全米図書賞発表 (2011 National Book Award for Fiction)

 ニューヨーク時間で11月16日、今年の全米図書賞が発表され、小説部門で Jesmyn Ward の "Salvage the Bones" が栄冠に輝いた。ぼくはてっきり、Tea Obreht の "The Tiger's Wife" が受賞するものと思いこんでいたので意外な結果だ。このところ1日1話のカタツムリ・ペースで読んでいる Edith Pearlman の "Binocular Vision" がダークホースかな、と予想していたが、これも外れ。
 恥ずかしながら、受賞作は未読。ペイパーバック版はまだ出ていないようだ。

Salvage the Bones

Salvage the Bones

[☆☆☆★] 疾風怒濤の青春時代を描いた小説といえば、ある一定の筋書きが思いうかぶものだが、本書はメッセージもふくめて定石どおり。主人公の心中の嵐と対応して、実際にもハリケーンが吹き荒れる点が目新しいくらいか。舞台はミシシッピ川河口の町。純情な高校生の黒人娘が妊娠するが、相手の少年にはべつの彼女がいる。当然、揺れる恋心と不安が綴られるものの平凡だ。一方、娘の兄が飼っている闘犬の出る試合は緊張感にあふれ、兄が終始変わらず犬に愛情をそそぎ、それが最後、娘の再生への希望につながるなど、この犬の扱い方はうまい。ハリケーンの襲来シーンも予想どおりながら迫力満点。町の破壊と娘の傷心が重なり、そのあと「再生への希望」が示されるのも定番ながらいい。ただ、それが感動を呼ぶほどではないのは、何もかもほとんど「定石どおり」だからではないだろうか。会話にはブロークンな表現もあるが、総じて標準的な英語だと思う。(12年2月6日)