ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Auster の “Winter Journal” (1)

 予約注文していた Paul Auster の最新作、"Winter Journal" が意外に早く届き、正式な発売日の今日読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

Winter Journal

Winter Journal

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[☆☆☆★★★] 2011年1月から、冬のさなかにポール・オースターが書き綴った自伝。年代順ではなく、フラッシュをたいたように浮かびあがる過去の断片をテーマ別にまとめたもので、その構成はすこぶる小説的といってよい。自分を you と二人称で呼ぶことが端的に示すとおり、おのれをつとめて冷静に客観視し、自己の内面を理知的に検証。美醜とりまぜ悲喜こもごも、ありのままの自分を正直に観察・回想した魂の記録である。ノスタルジックな感傷はみじんもない。むろん生きた感情は流れているのだが、それがみごとに抑制されているだけに〈静かな熱気〉が伝わってくる。その熱気にあおられながら、喧嘩や恋愛、結婚、肉親の死、貧しい生活といった日常風景に接すると、読者も似たような体験を思い出し、それぞれの風景に刻まれた魂の記録にふれることでわが心を見つめなおすのではないか。また内面だけでなく、手の動きや飲食物などフィジカルな側面にも観察がおよんでいる点がいかにも小説家らしく、聴覚的な刺激から創作意欲を駆りたてられたというエピソードなど、創作の秘密の一端をかいま見るようで興味ぶかい。ともあれオースター64歳。いまや「人生の冬を迎えた」作家にふさわしい人生の総括である。