今年の国際ダブリン文学賞(International Dublin Literary Award)受賞作、Akhil Sharma の "Family Life" を読了。Sharma はアメリカ在住のインド系作家である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 介護は家庭の問題であり、個人の問題であり、また社会の問題でもある。本書はこの介護にかかわる三つの側面を、アメリカのインド系移民とそのコミュニティーに即して描いた、エスニック色濃い作品である。少年アジャイの一家が渡米後、兄が不慮の事故にあい、植物状態になって生活が一変。地獄の介護の日々がはじまる。他人ごとではないリアルな修羅場だ。アジャイは自分のエゴイズムを正直に吐露。やり場のない気持ちを発散させる一方、エゴと良心の呵責、兄への愛情という葛藤に苦しむ。この内面描写が秀逸である。やがて両親の不仲、父親のアルコール依存症へと事態は悪化。インド系独特の風習を通じて、同胞たちの善意や好意の裏にひそむ欺瞞も容赦なくあばき出される。このように本書は、介護に端を発し、移民社会ならではの文化の問題を鋭く衝いた作品として大いに称揚したい。さらに人種差別や白人コンプレックスも採りあげ、青春小説のおもむきも添えるなど、やや盛りだくさんのきらいはあるものの、これほど多くの角度から介護問題を扱った小説は少ないのではなかろうか。