ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alice Munro の “Lives of Girls and Women” (1)

 Alice Munro の初期作品で唯一の長編小説、"Lives of Girls and Women" (1971) を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] 1940年代、オンタリオ州の田舎町を舞台に、ある少女の小学校から高校時代までのエピソードが年代記ふうに綴られた長編だが、実質的には連作短編集に近い。なにより驚くのは冷徹で繊細な観察眼だ。その目はあらゆるものを観察してやまない。室内外の光と影、人物のちょっとした表情、言葉のひびき、心の変化。物心両面にわたって鋭敏な感覚がとことん細部にこだわり、対象を冷静に分析、客観的に位置づけていく。それゆえ、ハートウォーミングな、あるいは悲痛な場面でも適度に感情が抑制され、子どもらしいドタバタ喜劇にしても、ローカル・ピースならではの素朴なユーモアにしても、品がいい。頑固な母親との軋轢、親しい友人とのふれあいと別れ、性の目ざめ、初体験。核心にあるのは、幼い娘からおとなの女性へと成長していく通過儀礼だが、それぞれの局面における現実、それも社会的な現実だけでなく、人間の内面的現実が容赦なくあばきだされるのが特色。その現実をしかと見すえ、強く生きぬこうとする不屈の意志が成長の鍵となっている。心中の矛盾した感情が自己観察を通じてありのままに描かれる 'Baptizing' が全篇の白眉。各話とも凝縮された感情を描くにふさわしい濃密な文体の結晶である。