Barbara Kingsolver の "Flight Behavior" を読了。オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 人は美しい自然に感化され、生きるヒントをつかむことがある――日本人にはおなじみのテーマだが、本書で描かれる自然は
エコロジーの問題と直結している。それゆえ、人生の悩みだけでなく、現在の地球にどんな異変が起きているか、その異変にたいして人間は何ができるのか、何をすべきなのか、というのが本書の主眼である。つまりこれは、人生と地球環境の問題を巧みに織りまぜ、より具体的には
ホームドラマと
エコロジーをみごとに合体させた小説なのである。その構成は間然するところがない。二児の母親ながら
恋多き女が、アパラチアの美しい森林と、そこに突然発生した無数の蝶の大乱舞に感動。やがてそれが過去のトラウマとその超克、家族の対立と和解というテーマと同時に、
地球温暖化の問題へとつながっていく。蝶の異常発生をめぐる大騒ぎなどコミカルなエピソードが楽しく、奇跡とも思えるほど幻想的な光景の描写もすばらしい。と、どの要素をとっても完璧な仕上がりなのだが、そのわりに心に響いてくるものは少ない。地球規模の
エコロジーの問題の重大さとくらべ、それに直面した人間が織りなすのは
ホームドラマが中心だからだ。配合の妙はさておき、「人生の問題」の小ささがどうしても目だってしまう。しかも、
エコロジーとからめなければ定番の話なのだ。ひるがえって、環境問題の教科書のようなくだりがあるのも興ざめである。英語は知的な文体で、語彙レヴェルはかなり高い。