ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

A. M. Homes の “May We Be Forgiven” (1)

 諸般の事情で大幅に遅れてしまったが、オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の受賞作、A. M. Homes の "May We Be Forgiven" を昨日、ようやく読了した。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 主人公は政治史の学者ハリー。その弟の妻が突然、熱いキスを! やがてふたりは道を踏みはずし……というセンセーショナルな書き出しだが、昼メロ調はここまで。以後、まことに奇妙な人間関係からなる珍無類の悲喜劇がはじまる。ハリーは弟の子供たちの親代わり兼ペットの世話係となり、弟が交通事故を起こして死なせた相手の子どもの面倒まで見るしまつ。はたまた、出会い系サイトで知りあった女と関係するや、その夫もまじえてバーベキュー・パーティ。買い物先の店で出会った女とも関係、なんと女の痴呆症気味の両親が家に転がりこんでくる。ほかにも破天荒なエピソードの連続で、あわてふためくハリーの姿がなんともおかしい。が一方、彼は離婚と失職を余儀なくされ、絶望の淵に沈んでもいて、その実存の叫びが痛切このうえない。やがてハリーは自分をとりもどすべく、ニクソン元大統領の研究に情熱を傾注。それがケネディー暗殺の謎へとつながるあたり、自己喪失とその超克という定番の流れを超えたおもしろさがある。とはいえ、ハリーが曲がりなりにも生きがいを見いだすきっかけは自助努力ではなく、むしろ、偶然のできごとに翻弄されるうちに他人と結びつき、上のように珍妙なファミリーを形成することにある。家族の絆という平凡なテーマの通俗性を感じさせないオフビートな佳篇である。