ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Red and the Black" 雑感(1)

 このところずっと、夏に読んだ "Klingsor's Last Summer" のおさらいをしていたが、じつはその一方、Stendhal の "The Red and the Black" をボチボチ読んでいた。ご存じ世界十大小説のひとつに数えられる名作中の名作である。
 これは、ぼくが英語で読みレビューも書いた世界十大小説としては、Balzacの "Old Goriot" [☆☆☆☆] (http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080830/p1)、Flaubert の "Madame Bovary" [☆☆☆★★★] (http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090804/p1) に次いで3冊目。そのうち、面白さという点では本書が図抜けている。
 Stendhal の作品としては2冊目だ。洋書の読書記録を調べると、12年前に読んだ "The Charterhouse of Parma" 以来である。当時はまだレビューを書いていなかったが、「陰謀また陰謀の宮廷メロドラマ」という一口コメントだけは残してあった。内容は例によってあらかた忘れてしまったものの、このコメントはけっこう的を射ているような気がする。とにかく、めっちゃくちゃ面白かった。面白さという点では、ことによると "The Red and the Black" より上かもしれない。
 その本書だが、もちろん最初は邦訳で読んだ。中2のころかな。次に読んだのは大学時代で、これも邦訳。再読しようと思ったきっかけは、まったく記憶にない。というわけで、今回は数十年ぶりの再々読。せっかくなので英訳で読むことにした。(ちなみに、『パルムの僧院』の邦訳は読んだことがない)。
 じつはこれ、当初は同じ Penguin Classics でも旧版 "Scarlet and Black" のほうで読んでいたのだが、そのうち新訳が出ていることを発見。改めて最初から読み直してみると、こちらのほうがぼくには読みやすかった。
 新旧両訳でどんな違いがあるのか、Julien Sorel と Mme de Renal の出会いのシーンで較べてみよう。[旧] 'Julien turned round sharply and, struck by the very gracious look on Madame de Renal's face, partly forgot his shyness. Very soon, astonished by her beauty, he forgot everything, even why he had come.' (p.46) [新] 'Julien turned abruptly and, struck by a look so full of grace, forgot some of his shyness. Then, amazed by her beauty, he forgot everything, even his business there.' (p.35)
 ううむ、かなりビミョー。もっと較べないと違いはわからないかもしれない。それより、やっぱりいいですな、こういう純情は。「……出会いのときの きみのようです ためらいがちに かけた言葉に 驚いたように ふり向くきみに……」なんて歌を思い出しました。
(写真は和霊神社前、須賀川ぞいの桜並木。宇和島市内で桜の名所のひとつである)。