ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Graeme Macrae Burnet の “His Bloody Project”(1)

 今年のブッカー賞最終候補作、Graeme Macrae Burnet の "His Bloody Project" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 前半はよく出来たクライム・ストーリー。19世紀なかば、スコットランドのハイランド地方で凄惨な殺人事件が起こる。犯人の少年はあっさり犯行を自供するが、犯行時、彼は正気だったのか否か。事件の背景と犯行までの経緯を物語る少年の回想録が青春小説の味わいで、素朴なユーモアも楽しめる。それが一転、凶行におよぶというコントラストが鮮やかだ。後半はリーガル・サスペンス。被告の責任能力の有無が争点だが、検察側が被害者の横暴ぶりを証明し、弁護側が少年の狂気を訴えるという皮肉な展開がおもしろい。権威主義的な上流階級が鋭く風刺され、一見単純な事件でも真相は藪のなか、神ならぬ人間の裁きに完璧は期しがたく、あってはならぬ誤審の可能性がつきまとう、といった苦い真実も汲みとれる点を評価したいが、風刺ともども、何番煎じかのトピックスをそつなく配した感は否めない。