2018-05-13 Han Kang の “The White Book”(1) 国際ブッカー賞 東洋文学 今年のブッカー国際賞最終候補作、Han Kang の "The White Book" を読了。さっそくレビューを書いておこう。The White Book作者: Han Kang,Deborah Smith出版社/メーカー: Portobello Books Ltd発売日: 2018/04/05メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る[☆☆☆★★] 生きていると、言葉にならない苦しみや、言葉をかけようもない悲しみを経験することがある。それをもし言葉で表現するとしたら、おそらく、傷ついた心を静かに見つめ、魂の奥から声を絞りだすしかあるまい。本書は、そんな魂の声が聞こえる作品である。雪や氷、雲や霧、蝶やカモメなど、白をモチーフに事物を心の眼で、すこぶる繊細鋭敏な感覚でとらえ、しばしば散文詩に近づきながら、生と死、光と闇の間隙という、まさに言語を絶する領域にまで踏み込んでいく。そうした心の旅のはじまりに、言語を絶する悲痛な体験があるのだ。その旅絵巻には復活への模索、人生のはかなさの実感、無垢で聖なるものへの希求、肉親の死と自分の生との因果をめぐる懊悩など、さまざまな思いが白のグラデーションで描かれている。『白鯨』の「鯨の白さ」から得られるような知的昂奮こそ味わえないものの、思い屈した夜に読むと心にしみる佳品である。