ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Han Kang の “The White Book”(1)

 今年のブッカー国際賞最終候補作、Han Kang の "The White Book" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The White Book

The White Book

[☆☆☆★★] 生きていると、言葉にならない苦しみや、言葉をかけようもない悲しみを経験することがある。それをもし言葉で表現するとしたら、おそらく、傷ついた心を静かに見つめ、魂の奥から声を絞りだすしかあるまい。本書は、そんな魂の声が聞こえる作品である。雪や氷、雲や霧、蝶やカモメなど、白をモチーフに事物を心の眼で、すこぶる繊細鋭敏な感覚でとらえ、しばしば散文詩に近づきながら、生と死、光と闇の間隙という、まさに言語を絶する領域にまで踏み込んでいく。そうした心の旅のはじまりに、言語を絶する悲痛な体験があるのだ。その旅絵巻には復活への模索、人生のはかなさの実感、無垢で聖なるものへの希求、肉親の死と自分の生との因果をめぐる懊悩など、さまざまな思いが白のグラデーションで描かれている。『白鯨』の「鯨の白さ」から得られるような知的昂奮こそ味わえないものの、思い屈した夜に読むと心にしみる佳品である。