ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Evelyn Waugh の “Sword of Honour”(3)

 前回はこんな話だった。ぼくが最近読んだ海外文学の新作は五冊。どれもそれなりに面白いけれど、表題の『名誉の剣』三部作とくらべると、どれもかなり物足りない。(スターを付けてくださった shinread さん、brownsuga さん、ありがとうございます)。
 なぜか。流れからして当然、それが今回のテーマになるはずだが、五冊ともまだレビューを書いただけ。ここで一気に比較論を述べてしまうと、新作のほうの落ち穂拾いがしにくくなる。きょうは『名誉の剣』に絞って駄文を綴ることにしよう。
 まず、ぼくが実際に読んだのは Penguin Classics 版だが、この巻頭には、Angus Calder という人が書いた懇切丁寧とおぼしい序論が載っている。「おぼしい」というのはその分量から推測したもので、確信はない。ぼくは面倒くさいので素通りしてしまったが、本書を研究する人ならたぶん必読だろう。なにしろ Penguin Classics ですからね。
 それでも、イーヴリン・ウォー自身の序文は読みました。これは仕方がない。冒頭の見開き左ページにあるのだから、いやでも目に入ってしまう。
 で、そのどこにもテーマらしきものは書かれていない。当たり前だ。自分からネタを割る作家なんているわけがない。それは読者がお考えください、ということなのだろうが、そのとき上の序論は大いに役立つのでは、と思うのです。
 ひるがえって、ぼくは研究者でもなんでもない、ただの〈文学老人〉なので、あくまで自分の興味に沿って本書を読んでいった。その途中経過を「雑感」にまとめ、さて、レビューを書こうとしたとき、ふとひらめいた。これはイーヴリン・ウォー自身、おそらく意図していなかったことかもしれないが、あるきわめて今日的な問題を提出した作品である、とも言えるのではなかろうか。つまり、「一朝有事の際、人はいかに行動すべきなのか」。
 ここから、ちょっとキナくさい話になります。ぼくはふだん小説ばかり読んでいて世間のことにはまったく疎いのだけれど、有事の際に一般市民が取るべき行動のあり方について書かれた防衛論はあるのでしょうか。戦争を防ぐにはどうしたらいいか、というものならケンケンガクガク、議論百出だろうと想像しますが、いざ戦争が起きたら、というところまで踏み込んだものはどうも少ないような気がする。いや、そんな事態を想定すること自体が危険なのだ、という意見さえありそうですね。
 ともあれ、万一戦争が起きたら戦うのは軍人だけ、ということはありえない。非戦闘員もなんらかのかたちで巻き込まれるのは言うまでもない。問題は、その関与の仕方である。積極的に協力するのか反対するのか、はたまた国外逃亡でも図るのか。
 昨今の移民問題からして、国内で市街戦が発生する可能性もなきにしもあらず、とぼくは最悪の事態を危惧している。そのときぼくは自分のため、家族のためにどう動くのだろうか。と、いまは他人ごとのように書けるけれど、いざというときの覚悟だけは決めておいたほうがいい。

 いかん、柄にもなく、ヤバイ話をしてしまった。なにしろ、『名誉の剣』にはこんな一節があのだ。'Is there any place that is free from evil? It is too simple to say that only the Nazis wanted war. .... It seems to me there was a will to war, a death wish, everywhere. Even good men thought their private honour would be satisfied by war. They could assert their manhood by killing and being killed. They would accept hardships in recompense for having been selfish and lazy. Danger justified privilege. I knew Italians ― not very many perhaps ― who felt this. Were there none in England?' 'God forgive me,' said Guy. 'I was one of them.'(pp. 655-656)
 主人公ガイ・クラウチバックと、彼がユーゴスラヴィアで出会ったユダヤ人難民の女性との会話である。本書のタイトル "Sword of Honour" に直結するくだりだが、一朝有事の際、人は好むと好まざるとにかかわらず、いつかどこかで手を汚すことになるだろう。There is not any place that is free from evil. ということだけは覚悟しておくべきだ。
(写真は、愛媛県宇和島市和霊神社。去年の秋、帰省中に撮影)

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