ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Years" 雑感(2)

 一年ぶりに職場へ復帰し、通勤ラッシュの人波にもまれる生活が再開。おかげで読書のスピードもカタツムリくん。「ブログはヒマな人がやるもの」という昔聞いた同僚の言葉を実感している。(お仕事が多忙なブロガーのみなさんを中傷する意ではありません。あしからず)。
 いま読んでいるのは、現地ファンの下馬評どおり、今年のブッカー国際賞ショートリストに入選した Annie Ernaux(仏)の "The Years"(原作2008、英訳2017)だが、評価は前回とおなじく☆☆☆★。相変わらず、つまらない。
 理由は簡単。ストーリーらしいストーリーがないからだ。時代はざっと十年進み、1960年代後半。ド・ゴールミッテランの話も出てくるものの背景にすぎない。主人公らしき少女が高校を卒業して大学に進学。と思ったら、つぎに顔を出したときはもう一児の母になっている。
 顔を出すと言っても、ほかの学生やベビーといっしょの写真の中だけで、誰かと言葉をかわすわけではない。高校・大学時代は恋愛やセックス、結婚してからは家族のことが関心事のようだが、何かのトピックスについて考察を深めるわけでもない。彼女と同世代の若い女たちを指すものと思われる we の視点から、あるいは第三者の立場から、前回同様、「人々の生活や情景、会話の断片などがスケッチふうに、あるいは脈絡のない記録映画のように描かれるだけ」。
 好きな人は好きなんだろうけど、ぼくの趣味ではない。救いは、上のとおりコマギレに読んでもストーリーを忘れずにすむことだ。いや、忘れようにも、そもそもストーリーがない。正確に言うと、スケッチや記録映画のワンシーンを楽しむのにはもってこいである。困るのは、それがちっとも面白くないことだ。
 テーマに関係しそうな、というか、ぼくの目に止まったくだりを引用しておこう。There is no relation between her life and History....(p.83) In the humdrum routine of personal existence, History did not matter. We were simply happy or unhappy, depending on the day. The more immersed we were in work and family, said to be reality, the greater was our sense of unreality.(p.89)
 現地ファンの声をざっと拾ってみると、ロンドン時間で9日に発表された最終候補作のうち本書は1番人気。ついで、Juan Gabriel Vasquez(コロンビア)の "The Shape of the Ruins"(英訳2018)。それから、Alia Trabucco Zerán(チリ)の "The Remainder"(英訳2018)が3番人気のようだ。いつになったら "The Years" を読みおえるのか覚束ないが、とりあえずこの2冊を注文したところ。 

The Shape of the Ruins: A Novel (English Edition)

The Shape of the Ruins: A Novel (English Edition)

 

 

The Remainder (English Edition)

The Remainder (English Edition)

 

 もちろん未読なので直感だけど、Vasquez が栄冠に輝きそうな気がします。

 フーッ。きょうこそ Orhan Pamuk の "The Museum of Innocense" の落ち穂拾いをしようと思って記事を書きはじめたのに、閑話休題の閑話をしただけで疲れてしまった。急遽、タイトルを変更しました。