ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joseph Boyden の “The Orenda”(2)

 さる12月、2018年のギラー賞最終候補作で、ファン投票では1位だった Eric Dupont の "Songs for the Cold of Heart"(☆☆☆★★)を読んでいたら、Hannah Arendt の "The Origins of Totalitarianism" の話が出てきた。ああ、そういえばこの名著も未読だったな、邦訳を少しかじっただけで。
 そのかすかな記憶をたよりに判断すると、Penguin 版の同書に取り組むのはおそらく、かなりしんどい。しかし気になる。迷っているうちにふと、全体主義つながりで思い出したのが "Homage to Catalonia"。恥ずかしながら、これも若いころ邦訳でお茶を濁しただけで、原書も途中までしか読んだことがない。これぞまさしく、読まずに死ねるか!
 というわけでもっか、ずいぶん久しぶりに Orwell を読んでいる。すっかり黄ばんでしまったペイパーバックに、1983年の神田〈書泉グランデ〉のカレンダーがしおり代わりに挟んであった。なんと38年ぶりの再トライというわけだ。
 さすがに奥が深い、というか、考えさせられることが多い。ほんとうはもうその話をしたいのだけど、きょうはとりあえず表題作の落ち穂拾い。Joseph Boyden の作品を読んだのは、2008年のギラー賞受賞作、"Through Black Spruce"(☆☆☆☆)以来2冊目である。 

 これはめちゃくちゃ面白かった。「物語性抜群の文芸エンタテインメントである」。その後邦訳が出たかどうかはチェックしていないけれど、もしギラー賞ではなく、英米のメジャーな文学賞の受賞作だったら、間違いなく飛びついた出版社もあるのでは、という気がする。
 しかしながら、いかんせんギラー賞。カナダではもっとも権威があるとされているのだけど、それくらいでは売れないと判断された可能性が高い。
 そして今回の "The Orenda"、これはますます売れそうもない。カナダ先住民同士が争った物語なんて、日本ではせいぜいマイナーなブログ向きの作品である。 

 だがアマゾン・カナダで検索すると、あちらでは、実際に受賞した Lynn Coady の "Hellgoing"(2013 未読)よりもはるかに人気があるようだ。建国の「産みの苦しみ」を実感した現地ファンが多いからだろう。
 物語の面白さという点では、"Through Black Spruce" より一歩か一歩半くらい落ちる。しかしこちらのほうが深い。「あらゆる国の国民文学としてじゅうぶん説得力がある」作品だからだ。What's happened in the past can't stay in the past for the same reason the future is always just a breath away. Now is what's most important. .... The past and the future are present.(p.487)噛みしめたい言葉である。

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD) 

The Well Tempered Clavier Das Wohltemperierte Klavier

The Well Tempered Clavier Das Wohltemperierte Klavier

  • 発売日: 1994/03/01
  • メディア: CD