ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2011年ギラー賞発表 (2011 Scotiabank Giller Prize)

 トロント時間で11月8日、ギラー賞の発表があり、Esi Edugyan の "Half Blood Blues" が栄冠に輝いた。同書は今年のブッカー賞の最終候補作にも選ばれている。ジャズ・ファンにはごきげんのミュージック・シーンがあり、マイルス・デイヴィスウィントン・マルサリスでも聴きながら読みたいところだ。
 大急ぎで読んだ Michael Ondaatje の "The Cat's Table" が落選したのは予想どおり。カナダでベストセラーになっている理由がぼくにはよくわからない。明日あたり、昨日のレビューの補足を書こうと思っています。
 "Half Blood Blues" が受賞したのは、あちらのファンのあいだでは意外な結果だったかもしれない。下馬評では、David Bezmozgis の "The Free World" が有力だったからだ。その情報をつかんだのがおとといで、あわてて入手したのだが外れてしまった。ともあれ、受賞作の以前のレビューを再録しておきます。

Half Blood Blues

Half Blood Blues

[☆☆☆★★] 青春とは激しい嵐に吹かれ、深く傷つく時代。平凡なテーマだが、その嵐にふさわしい人物と舞台の設定によって水準を超えている。第二次大戦前夜のベルリン、そしてドイツ軍による占領直後のパリで、二流のジャズ・ベース奏者が若き天才トランペッターとからみ合う。友情、嫉妬、欲望、挫折。おなじみのブルースが流れるなか、突然、恐怖の事件が何度か起こり、サスペンスが一気に高まる。恋愛沙汰もふくめ、定番の読み物の面白さだが、熱気を帯びたミュージック・シーンの描写は秀逸。かのルイ・アームストロングを脇役としてうまく使っているのも得点材料だ。この波乱に満ちた過去編とくらべ、今や老人の元ベース奏者が昔のバンド仲間と再会する現代編は、やはり緊張が走る場面もあるものの尻すぼみ。荒削りな物語になってしまったのが残念だが、全体として、青春の嵐と心の傷というブルースはよく伝わってくる。黒人が語り手ということで英語はブロークン。口語、俗語とりまぜた力強い骨太の文体だ。