ビンゴー・キッドの日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Richard Russo の “Empire Falls”(1)

 この二週間ほどずっと胃が痛く、休み休みの読書になってしまった。きょう診察してもらったところ、どうやら逆流性食道炎の再発らしい。薬が効きはじめるまで我慢するしかなさそうだ。なにはともあれ、きのう Richard Russo の "Empire Falls"(2001)をやっと読了。2002年のピューリツァー賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。 

Empire Falls

Empire Falls

  • 作者:Russo, Richard
  • 発売日: 2002/05/09
  • メディア: ペーパーバック
 

[☆☆☆★★] いつかは大きな山場が訪れるものと期待しながら読んでいると、最後の最後になってショッキングな大事件。それから一気に結末へとなだれ込み、エピローグで意外な真実が暴露される。舞台はメイン州エンパイア・フォールズ。滝に由来するその名のとおり、工場閉鎖でさびれた町である。繁栄の時代、資産家の息子チャールズの非業の死を予感させるプロローグの数十年後、本編ではレストランの店主マイルズが妻と離婚寸前。妻の浮気相手も店の常連だが、温厚なマイルズは冷静に接している。そんなマイルズをめぐる関係者一同のやりとりがすこぶる丹念に描かれ、夫婦や隣人をはじめ、親子兄弟、友人、中年の男女、高校生たちのさまざまな愛憎劇が繰りひろげられる。日常茶飯事のあいまに小さな山場があり、それぞれユーモアと緊張感をないまぜにしたローカル・ピース集のおもむきだ。そこへマイルズの少年時代の回想がまじり、優しく美しかった母親の悲しい人生が浮かびあがる。緻密な性格描写により各人ともステロタイプとまではいえないが、温厚篤実な夫と軽佻浮薄な妻に代表される類型的な対立関係が目だち、その対立も価値観ではなく愛憎をめぐるもの。激しい情熱と深い懊悩が偉大な高みへと昇華されることもない。上の大事件にしても感情の爆発にすぎない。とはいえ、それが主筋とは無関係なのに主役脇役たちの人生を大きく左右するところは、まさに運命のいたずら。プロローグのチャールズおよびその妻と、本編のマイルズおよびその母との複雑な絡みあいのように、小さな町ならではの濃密な人間関係もまた運命。ふだんさざ波が立つだけだった川の流れが突然、定めにしたがい轟音とともに滝底へと落ちていく。タイトルにふさわしい、いかにも現代人らしい人生の軌跡を描いた物語である。