ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Marilynne Robinson の “Lila”(2)

 これは2014年の全米批評家協会賞受賞作で、全米図書賞最終候補作およびブッカー賞一次候補作。そのころたいへん話題になっていたことは、あとで知った。ぼくは同年春から翌年の秋まで本ブログを休止。いまもそうだが、文学を通じて人間の本質がどうのこうの、と論じているわりには人間のことがわかっていない。その思いが当時とみに強くなり(いまは棚上げ)、しばらく文学から遠ざかっていた。
 というわけで、ブログ開設以前、2000年代前半の作品にくわえ、2010年代中期にも未読本がかなりあり、19, 20世紀の名作・古典とあわせて積ん読の山を形成している。これを切り崩す試みの一環で "Lila" に取りかかった。
 読後に遅ればせながら気づいたのだが、本書の主な登場人物は "Gilead"(2004 ☆☆☆☆)と変わらない。内容そのものも、"Gilead" の延長線上にある。これは "Home"(2008 ☆☆☆★★★)も同じだが、同書を読んだときもやはり、ルーツが "Gilead" にあることは意識せずにレビューをでっち上げたような気がする。
 これも読後に知ったことだけど、昨年 "Jack"(未読)が刊行され、それまでギリアド三部作だったのが四部作に。ちなみに、ぼくは従来「ギリアッド」と表記していたが、今回「ギリアド」にあらためた。"Gilead" の邦訳が2017年に『ギレアド』として刊行されているのを、これまた初めて知ったからだ。邦題はたぶん聖書の日本語表記に即したものと思われる。が、『固有名詞英語発音辞典』(三省堂)によれば、/gIliæd/ となっている(g がなぜか表示不良)。そこで邦訳と折衷し、「ギリアド」。 

 その邦訳が出るまで "Gilead" は13年も要し、それも版元が大手の出版社ではなくキリスト教関係というのはむべなるかな。ぼくは同書を読んだときから、「主人公が牧師であるため、思索が信仰や神学に及ぶところが日本の読者にはひとつのハードルかもしれない」と思っていた。よくぞ出版してくれました。 

ギレアド

ギレアド

 

  けれども、海外では当初から高い評価を受けている。ご存じガーディアン紙選 the 100 best books of the 21st century でも、Hilary Mantel の "Wolf Hall"(2009 ☆☆☆☆★)についで第2位にランクイン。
 あれれ、"Lila" ではなく、"Gilead" の話ばかりしてしまった。三部作まで読みおえた感想としては、もしぜんぶ未読なら、やはり "Gilead" から入るのがオススメ。そこで琴線にふれるものがあれば、"Home" もイケるはずだ。肝腎の "Lila" はといえば、ううむ、素朴な弁神論が読めるのはいいのだけど、その点もふくめて、日本の一般読者がいきなり取り組むにはちょっと敷居が高いかも。("Jack" は今後もパスするつもり)。
 ところが、冒頭でふれたようにあちらでは評価が高い。ひとつには、背景にキリスト教文化があるということでしょうな。「アメリカの田舎や保守的な地域では宗教が生活にしっかり根付いてい」るという話は、ほんとうのことだと思う(谷本真由美著『世界のニュースを日本人は何も知らない』)。でなければ、三作の舞台 Gilead のような架空の町がそんなにリアリティたっぷりに描かれるはずがない。谷本氏の著書は、続編ともども時々読んでいる。