ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Patrick Modiano の “The Night Watch”(1)

 きのう、フランスのノーベル賞作家 Patrick Modiano の第二作、"The Night Watch"(原作1969, 英訳1971)を読了。本書は "The Occupation Trilogy"(2015)の第二巻でもある。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 一朝有事のさい、一般市民が生きる選択肢は逃亡にしろ残留にしろ、ごくかぎられている。それだけにその決断は、よかれあしかれ、そのひとの本質を示すものでもあろう。ナチス・ドイツによるフランス占領時代、母をスイスに避難させたあと、パリに残ったユダヤ系の青年スタヴィスキーが選んだ道は二重スパイ。フランスのゲシュタポに所属してレジスタンスの組織に潜入後、レジスタンス側からはゲシュタポの内偵を依頼される。やがてスタヴィスキーは「おれはだれだ」という疑念に駆られ、その疑念がじつは昔からあったことを痛感。つまり実存の不安とアイデンティティの喪失は彼の本質であり、それをむき出しにしたのが戦争だったのである。それはもとより現代人の本質でもあり、開巻直後の狂騒劇のようなパーティにしても、時に描かれるシュールな幻想や夢想に満ちた心象風景にしても、その混乱ぶりは、不条理な現代社会の縮図といったおもむきがある。それにしても戦争の傷は深く、スタヴィスキーが自分の裏切った面々を思い出すシーンはたまらなく切ない。後年のモディアノ節の萌芽ではないだろうか。