ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Faulkner の “Requiem for a Nun” (1)

 William Faulkner の "Requiem for a Nun"(1951)を読了。周知のとおり "Sanctuary"(1931)の続編で、前作から8年後の物語という設定になっている。さっそくレビューを書いておこう。(「なにから読むか、フォークナー」に転載)。

[☆☆☆★★] 罪と神の救いをテーマにした三幕の道徳劇。それぞれの開幕前に舞台説明があり、南北戦争前から第二次大戦後まで、進歩と変化の連続した歴史のなかで不変のもの、いわば歴史の定点として、ミシシッピ州の架空の町ヨクナパトーファ郡ジェファーソンが紹介される。これに呼応して本篇でも、「過去はけっして死なない。過ぎ去ってさえいない」という書中の有名なことばが示すとおり、永遠に解決することのできない道徳的難問が提出される。罪は苦しむことで償えるのか。罪を赦し、赦しを受け容れることは可能か。もし償いも、赦しも、赦しの許容もありえないのなら、そこには苦しみしか残らなくなるが、そのとき苦しむ者に神の救いはあるのか。前作『サンクチュアリ』の息づまるような劇的展開は影をひそめ、ここでは女主人公テンプルのみずから犯した罪をめぐる煩悶懊悩が、劇形式により単純化されているものの重苦しく語られる。テンプルの罪へのこだわりはキリスト教文化圏以外の読者には異様とも思えるほどだが、さほどにおのが罪の深さと救いのなさに絶望するということはとりもなおさず、同じく上の読者にはうかがい知れぬ、超絶的なまでに崇高な善への希求があるということでもあろう。本書は、そうした二律背反への鎮魂歌として、矛盾に満ちた人間性を深く洞察したフォークナーの思想を物語る作品である。