5つ星の作品にこだわり、Irene Nemirovsky の "Suite Francaise" を採りあげてから、柄にもなくお堅い話が続きすぎてしまった。問題の核心にさっぱり触れない作家よりも、深刻な問題を粗雑に扱うレビュアーのほうが、よほど罪が重いかもしれない。ということで、多忙ゆえの「名作巡礼」も軽い内容へ軌道修正することにした。
追記:本書は下にも書いたとおり、映画「ひと月の夏」の原作です。
A Modern Classics Month in the Country (Penguin Modern Classics)
- 作者: J L Carr,Penelope Fitzgerald
- 出版社/メーカー: Penguin Classic
- 発売日: 2014/07/01
- メディア: ペーパーバック
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…80年のブッカー賞候補作で映画『ひと月の夏』の原作だが、映画のほうは未見。観てもいない映画の話をするのは気が引けるが、双葉十三郎氏はこれを『外国映画 ハラハラドキドキ ぼくの500本』の中に収めている。へえ、そんな映画なのかと驚いたが、ぼくが読んだ原作の印象としては、青春小説とローカル・ピースをうまく混ぜ合わせたものだ。
上のレビューにも書いたが、これはとりわけ後半が見事。年齢的にはまだ青年の主人公が美しい牧師の妻に恋をするものの、二人の心が通じ合ったかに見える瞬間はまさに瞬間にしか過ぎない。しかし、それは同時に永遠の一瞬でもあり、その思い出は主人公の心に一生焼きついている。同じ双葉氏の本でも、『愛をめぐる洋画 ぼくの500本』に入れたくなるような内容だ。
本書でこういう結晶化された一瞬を産みだす要素を箇条書きにすると、青春時代の夏、一つの仕事に注ぐ情熱、初めて見る美しい田舎の風景、そして美しい女性との邂逅ということになるが、驚いたことに、これらはすべて福永武彦の『廃市』にも当てはまる。ぜひ読み較べたいところだが、残念ながら『廃市』はもはや新潮文庫でも古本でしか手に入らないようだ。さりとて、大林宣彦監督の映画化作品も、BSで観ただけの感想で言うと、出来はあまりよくない。滅びゆく街という廃市のイメージはうまく映像化されているのだが、原作にこめられた青春時代の夏の情熱が今ひとつ伝わってこないし、大林監督は得意のファンタジー的な処理に寄りかかり過ぎていると思う。福永武彦は一般の読者には『忘却の河』ならぬ、忘却の彼方へと消えつつある作家なのだろうか。
- 作者: 福永武彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/05/02
- メディア: 文庫
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